さよならの魔法




私は、1人じゃない。

怖くないよ。


だから、戦おう。

断ち切ろう。



忌まわしい鎖を、この手で。


メイクをすることで、強くなる仮面を被って。

また、魔法をかけるんだ。





「………天宮、春奈です。」


声を張り上げて、そう答える。

フワリとパーマが緩くかかった西脇さんの髪が、わずかに揺れた。



「え!?」


西脇さんの目が、大きく見開かれる。

大げさ過ぎるほどに。




「あ、あ、あの………天宮さん!?」

「うん、そうだけど………。」


私が天宮 春奈であることに、相当驚いたらしい。

座っている椅子から転げ落ちそうな西脇さんの体を、私は身を乗り出して支えた。



「大丈夫?怪我、してない………?」


それほど高さのある椅子ではないけれど、転げ落ちたらそれなりに痛いだろう。

転げ落ちる前に支えたつもりだったけど、もしかしたらどこかを打っているのだろうか。


そうだとしたら、心配だ。


放心気味の西脇さんに、怪我の有無を問う。

私の問いかけに、西脇さんは慌てて体を起こして、こう答えた。



「だ、大丈夫!大丈夫だから………。それより、天宮さん、ほんとに久しぶりだね!!」

「うん、久しぶり………だね。」

「昔と全然違うから、一瞬、誰なのか分かんなかったよ。」



彼女の言葉の通り、こうして話すのは久しぶりのことだ。


私は3年に進級してから、クラスメイトと話す機会はほぼなかった。


西脇さんと話したのは、いつ以来なのか。

思い出せないくらい、遠い昔のことだ。



西脇さんは、素直に思ったことを言ってくれる。

その言葉に、悪意は感じられない。


磯崎さんと同じ目で、私を見ない。

真っ直ぐな目で、私のことを見ていてくれる。


正直に伝えてくれる西脇さんに、悪い印象を抱くことはなかった。



(良かった………、作戦成功、なのかな?)


5年前とは、違う自分に見える様に。

せめて、外見だけでも違って見える様に。