さよならの魔法




クラス委員だった、同じクラスの女の子。

私宛てに、あのハガキを送ったその人。


西脇 友実。

ハガキに書かれていた名前が、蘇る。



「あ、今ね、出席者の確認を取ってるんだけど………。ごめんね、名前、教えてもらえるかな?」


西脇さんのその言葉に、私の脳が瞬時に固まった。



(私のこと、分からないんだ………。)


そっか。

当たり前だよね。


ここにいる私は、あの頃の私とは違うもの。

そう見える様に、ちゃんと自分を変身させてきたんだもの。



大人びて見せる様に、メイクをして。

自分を飾って。


服だって、色味こそ派手ではないけれど、6年前の私が身に付けなかった様な物を選んでいる。



わざと、そういうものを選んだ。

あの頃の私とは、別人みたいに見えるものを。


消したかった。

あの頃の私のイメージを消して、この場に現れたかったのだ。


5年前の自分ではないのだと、知らしめる為に。




(大丈夫だよ………、大丈夫。)


何も怖いことなんてない。


過去を乗り越える為に、私はここに来た。



過去を捨てたつもりになっても、私は変われなかった。

変わることなんて、出来なかった。


忌まわしい過去が、鎖の様に私を縛ってきたんだ。



乗り越えなければ、私は先に進めない。

いつまでも、5年前で止まったままだ。


このままじゃ、未来に飛べない。

先になんて行けず、立ち止まって囚われたまま。


囚われた自分を解放するには、自分自身の手で鎖を断ち切るしかない。



「ねえ、ハル。過去を乗り越えようよ。」

「乗り越え………る?」

「そう、乗り越えるの。」


私を信じてくれる人がいる。



「ハルの居場所は、ここにあるよ。ハルが帰ってくる場所はここなんだから、全部が終わったら帰っておいで………。」

「そうだよ。大丈夫だよ、ハル。」


私を励まし、待っていてくれる人がいる。