さよならの魔法




(嫌だな、ここで同窓会………って。)


思い出したくないものばかりが、脳内を猛スピードで駆け巡っていく。


何も言えなかった自分。

セーラー服を着て縮こまっていた自分が、再び現れる。



行きたくない。

逃げたい。


そう思う心も、ある。



だけど、もう逃げたくない。

目を逸らしたくない。


この暖簾をくぐっても、過去に戻る訳じゃない。

5年前の自分に戻る訳じゃないんだ。



ここにいるのは、15歳の私じゃない。

20歳の私だ。


私は過去を乗り越えたいから、ここに来た。

戻りたいから、ここに立っているんじゃないんだ。



本日、貸し切り。

そう張り紙がしてある戸を、ゆっくりと開けていく。


ガラス製の戸が、ギギギとぎこちなく、音を立てて横に動く。

ガラス製の戸の先に広がっていたのは、たくさんの懐かしい人達の顔だった。





「かんぱーい!」

「はー!ビール、うまっ!!」

「くくっ、お前、親父かよ!!」



それほど広くはない店内は、カウンター席と座敷に別れている。

よく見ると、2階に続く階段もある。


2階にも、座敷が広がっているのだろう。



店の中は、ざわめきと煌めきに満ちている。

店内に収まりきらないほどの熱気が、入口に立っているだけの私を圧倒していく。


みんなが手にしているのは、大きなビールのジョッキ。

どうやら、私は時間に少し遅れて到着してしまったらしい。



(どうしよう………、遅刻しちゃったみたい。)


時間に余裕を持って、宿を出たつもりだった。


しかし、考え事をしながら歩いてきたせいか。

思っていたよりも、随分と時間が過ぎていた様だ。



「………っ。」


戸惑う私に、1人の若い女の子が話しかけてきた。



童顔とも言える、少し幼い顔立ち。

制服なんてもう着ていないけれど、分かる。


中学時代の面影を残す、その子の名前は。



(西脇さんだ………。)