さよならの魔法




田舎町の駅前にある居酒屋が、同窓会の会場になっている場所だった。


チェーン展開している様なよくある居酒屋ではなく、個人経営の小さな店。

しかも、ここは、クラスメイトだったある男の子の両親が経営している店なのだ。


濃紺に染め上げられた暖簾には、大きく『まつしま』と書かれている。



5年前までの私は、クラスメイトと深く関わろうとしなかった。

唯一、仲が良かったのは、あの橋野さんくらいなもの。


ここがクラスメイトの実家だと知っているのは、本人から聞いたのではなく、そう話しているのを近くで聞いていたから。



(ここ、松島くんの家………なんだよね。)


駅前にあるこの居酒屋『まつしま』は、同じクラスの松島くんの家だって。

まだクラスに普通に通っていた頃、クラスメイトの誰かがそう話していたのを聞いた気がするのだ。


中学時代に男の子と話したことなんて、数えるほどしかない。

松島くんともあまり話したことはなかったけれど、私の中で松島くんの印象は最悪に近いものだった。




松島くん。


眼鏡をかけていて、少し太めの男の子。

体が大きいから、どこか威圧感を感じずにはいられない人。


松島くんは、磯崎さんと親しくしていた。

私をいじめていたあの子と、仲良くしていたんだ。



普通の人から見たら、気さくに見えるかもしれない。

話しかけやすいと思うのだろう。


けれど、私が抱いていた松島くんの印象は、全く正反対のものだ。



彼は、磯崎さんと一緒になって、私のことをからかっていた。

磯崎さんが皮肉な笑顔で私に近付いてくれば、その隣には松島くんの姿もよくあった。


磯崎さんの様に直接的に何かを言ってくることは少なかったけれど、磯崎さんとともに近付いてくるというだけで、私の中での心象は限りなく悪いと言わざる得ない。



苦手な人、というべきだろうか。

私の中で、松島くんという存在は。


その苦手な松島くんの実家で行われる同窓会は、私の足を更に重くさせていた。