side・ハル






20歳になったことを祝う為の儀式。

子供だった私達が、大人になる過程で必ず通る道。


成人式。


私はその日を、たった1人で迎えていた。

誰もいない部屋で。









綺麗な振袖もない。

華を添える、美しい髪飾りもない。


質素な宿の一室で、ただ外を眺めていた。



寂しいとは思わなかった。

出たいとも思わなかった。


私は成人式に出たいから、この町に戻ってきたんじゃない。

そんなことの為に、ここに来ることを選んだんじゃない。


私の心は、成人式よりも後に行われる同窓会に向いているのだ。



いつもよりも少しだけ、メイクに時間をかけた。

気合いを入れて、丁寧にやった。


ファンデーションを塗るパフを持つ手が震えていたのは、気のせいではないはず。



あの頃とは違う自分。

それを、目に見えて分かる様にしたい。


大人っぽく。

だけど、派手過ぎず。


あくまでも、今の自分を出す為に。



それほど長くない睫毛を長く見せる為に、繊維入りのマスカラを塗る。

塗り過ぎると重くなってしまうから、長さを出すことを優先して伸ばす様に。


睫毛の色とよく馴染む、黒のアイラインをスッと細く目元に引いた。



暖色系のアイシャドウ。

ふんわりと、頬に乗せたピンク色のチーク。


艶やかな、ベージュのグロスを唇に塗る。



高校生になるまで、メイクなんてしたことはなかった。


そんなもの、私には必要がないものだと思っていた。

それに、この田舎ではよほど派手めの女の子でない限り、メイクをしている子なんていないから。



千夏ちゃんと千佳ちゃんに教えられて始めたメイクだけど、意外と好きなんだ。

メイクをして、自分を変えていくこと。


絵を描くことと、似ている気がする。



真っ白なキャンバスに絵を描くみたいに、自分の顔に色を乗せていく。

自分自身が、キャンバスになる。


絵を描くことが好きな私からしてみれば、そういう気分なのだ。

メイクをするということは。