さよならの魔法




いつもみたいに、楽しく笑っていたい。

バカみたいにはしゃいで、騒いでいたい。


でもね、今は、それが出来ない。

簡単に出来ていたはずのことが、今だけはどうしても出来ないのだ。



心に余裕がない。


今の私を縛っているのは、あの頃の影。

置いてきたはずの影が、今でもなお、私を縛り付けたままでいる。



どんなに、忘れたつもりになっていたとしても。

どんなに、捨てた気になっていたとしても。


それは、そのつもりになっていただけで、結局は何も変わらなかった。

変えられないままだった。



トラウマなんだ。


過去の自分が、今の私を苦しめる。

捨ててきたはずの過去が、今でも私を苦しめる。


トラウマというその言葉が、パズルみたいに今の自分にピッタリとはまっていく。



「ねえ、ハル………ハルが泣いてるのは、そのハガキが原因………なんでしょ?」


分かっているんだ。

隠したくても、もう見抜かれてしまっているのだ。


千夏ちゃんの言葉が、真実を言い当てる。



千夏ちゃんが指を差す先にあるのは、私が奪い取ったハガキ。

クラス委員だった西脇さんから送られてきた、同窓会の開催を知らせるもの。


今の私の心を1番乱しているのは、間違いなくこのハガキだ。



「あのね、無理に話して欲しい訳じゃないの。………だから、泣かないで。」


千夏ちゃんに同調して、千佳ちゃんがそう言葉を重ねる。



千夏ちゃんも千佳ちゃんも、私から強引に聞き出そうとなんてしていない。

きっと、始めから。


私の心が傷付くくらいなら、この2人は無理に話を聞いたりしないだろう。



そっと、ドアを叩いてくれている。

私が頑丈に閉じ続けてきたドアを、千夏ちゃんと千佳ちゃんが優しく叩いている。


気を遣ってくれているのだ。


固く閉ざしたままだったドアを開けるのは、今なのかもしれない。

記憶を解き放たなければならないのは、今なんだ。