強くなりたい。
強くありたい。
あの頃の自分よりも、強く。
負けないくらいに、強く強く。
しかし、そんな私の強がりは、すぐ見抜かれてしまっていた。
「ハル、泣いてるの………?」
優しく、そう尋ねたのは千佳ちゃん。
千佳ちゃんの手が、私の肩にそっと置かれる。
肩に置かれたその手まで、震えているのが分かった。
「な、泣いてなんか………ないよ………。」
普通に言うんだ。
もっと、普通に。
何っていうことはない。
笑えないなら、隠せばいい。
今までみたいに、奥に引っ込めればいいだけ。
だけど、答えた私の声は、思っていたよりもずっと弱々しいものだった。
今にも消えてしまいそうな声が、狭い廊下に虚しく響く。
震えてしまう手を、グッと胸の前で握り締めて。
私が手にしていたあのハガキは、いつの間にか玄関の床に落ちていた。
それを拾ったのは、千夏ちゃんの小さな手。
「同窓会のお知らせ………、弥生が丘?」
聞き慣れない地名を呟いた千夏ちゃんが、不思議そうに首を傾げる。
「………っ!」
弥生が丘。
あの町の名前は、私の中では口にしてはいけない名前。
禁句なのだ。
ほら、その名前を聞いただけで思い出す。
思い出したくもないことを。
惨めでしかない、過去の自分の姿を。
私はその地名に無意識に反応して、咄嗟に千夏ちゃんの手からハガキを奪い去った。
「何でもないの!」
そう。
何でもない。
今の私には、何の関係もない。
何でもないことだ。
「何でもないから、見ないで………。」
触れないで。
見ないで。
忘れさせたままでいて。
ふと上げた視線の先に、千夏ちゃんの悲しげな顔が見えた。
(千夏ちゃん………。)
千夏ちゃんのことを傷付けたいんじゃない。
そんな顔をさせたかったんじゃないの。
