さよならの魔法




いじめられていた自分と決別したかった。

惨めだった自分を変えたくて、あの町を捨てたのだ。


逃げたんだ。

嫌なことしかなかった故郷から、私は逃げ出した。



2人に昔の話をしたことがなかったのは、そんな自分を知られたくなかったから。


惨めな自分を。

情けない自分を知って欲しくなかった。



何も知らないんだ。

何も教えなかったのは、私だ。


笑え。

笑うんだ。


笑って、2人を安心させてあげたい。

それなのに、笑顔が作れない。



こんなハガキ、何だって言うの?

紙切れ1枚で、動揺してどうするの?


ねえ、私はさよならしたじゃない。


昔の弱い自分に、ちゃんとさよならをしたはずなのに。



まだ足りないの?

まだ、………まだ足りないの?


魔法が弱くなってしまっているから、こんなにも戸惑うのだろうか。

揺れ動いてしまうのだろうか。



笑えば笑おうとするだけ、顔が歪んでいくのが自分でも分かる。

視界が滲んでいくのは、きっと涙のせい。


体は、心よりもずっと正直だ。



心は強がろうとするのに、体は真逆の反応を示す。

涙が我慢出来ず、ポロポロと零れ落ちてくる。


零れ落ちてくる涙を、慌てて両手で拭った。



「………っ、ふ…………う…………っ、………」


嗚咽を押し殺す。

溢れ出す感情を抑えて、奥に押し込める。


頑丈に蓋をして、固く固く鍵を閉めて。



大丈夫だよ。

何でもないよ。


平気だから、心配しないで。



言いたかった言葉が、嗚咽の中で消えていく。


伝えたかった言葉が、涙の中で埋もれていく。



笑顔が作れないのなら、涙だけは見せたくない。


千夏ちゃんと千佳ちゃんは、純粋に私のことを心配してくれているんだ。

そんな2人に、泣いている姿を見せる訳にはいかない。



止まって。

早く止まって。


涙なんか、止まって。



泣きたくない。

感情の渦に飲み込まれて、戻りたくない。


あの頃の自分になんて、戻りたくないの。