さよならの魔法




私の恋を阻んだのは、紺野くんが選んだ人ではなかった。


私のことをいじめて、弄んでいた女の子。

磯崎さんが、私の前に立ちはだかっていたのだ。


振り絞ったなけなしの勇気は、磯崎さんの残酷な遊びの前に砕け散る。



(こん………の………くん………。)


ここ何年も、この名前を口にしたことはなかった。

心の中でさえも、呟いたことはなかった。


崩れてしまいそうな気がしていたからだ。



口に出してしまったら。

言葉にしてしまったら、負けてしまう気がして。


中へ必死に閉じ込めた気持ちが溢れ出してしまいそうで、そのことが怖くて仕方なかった。






紺野くんの笑顔。


笑うと、目が細くなって。

その目が、とても優しくて。


柔らかいその微笑みが、好きだった。

すごくすごく、好きだったんだ。



だけど、あの日。

私の気持ちが、磯崎さんによって暴露されてしまったバレンタインデーの日。


あの時、紺野くんは困った顔をしていたね。

戸惑っていたのが、私にも分かってしまったんだ。



そんな顔が見たかったんじゃないの。

困らせたかった訳じゃない。


紺野くんには笑っていて欲しかった。

いつでも、笑顔でいて欲しかった。



嫌いになったよ。


困らせてしまった、自分のことが。

そんな顔をさせてしまった自分のことが、更に大嫌いになった。



私、紺野くんのことが好きだった。

紺野くんの笑顔が大好きだった。


何も望んでなんていなかった。

見つめていられるだけで、幸せだったの。




(そう、好き………だった。)


好きだったのは、5年も前のことだ。

今じゃない。


今は違うんだ。

好きだったけど、今はーーー………



もう、何とも思ってない。

そうでなければいけない。


それなのに、どうして。

どうして、こんなに胸が苦しくなるのだろう。