こんなに、母さんの背中は小さかったかな?
いつの間に、俺は母さんの背を追い越してしまったのだろう。
いつまでも大きな存在であることだけは確かだけれど、体は親を追い抜いていく。
小さく感じるその背中に、素直になれずに呟いた。
「………、突然だから驚いたよ。来るなら、連絡しろって。」
「連絡しても、バイトで忙しいって言われちゃうじゃない!」
「まあ、忙しいのは忙しいけど。」
大学に入ってからは、近所の本屋でバイトを始めた。
少しでも生活費の足しになればと思って、始めたことだ。
自分で使う分くらい、自分で稼ぎ出したい。
1人で生活を担うまでには至らなくても、いつまでも親に小遣いをせびっていたくなかった。
高校時代はバイトもせず、勉強に打ち込んできたんだ。
大学生になった今は、講義に差し障りのない程度にバイト先にシフトを組んでもらっている。
「全く、あんたは全然帰ってこないんだから。お父さんも心配してるのよ。」
「親父が?」
「そうよ。あんたが出ていっても、私とお父さんの会話の中心にいるのはあんたなのよ………ユウキ。」
ああ、俺、愛されてるんだな。
家にいない俺のことを思っていてくれる人が、ここにいる。
この世界にいるんだ。
それって、すごく幸せなことだ。
「悪い悪い………。これでも忙しいし、頑張ってるんだ。」
「分かってるわ。………親としては、会えないことが寂しいだけよ。」
「暮れの頃には帰るよ。親父にも、そう言っといて。」
「はいはい、分かりました。ユウキが好きなハンバーグ、作ってきたからね。」
「ほんと?」
「冷蔵庫に入れておくから、後で食べなさい。」
そんな小さな気遣いが、母さんらしい。
母さんは帰る直前、1枚のハガキを置いていった。
真っ白なハガキに書かれていたのは、俺の名前。
「ユウキ宛てに届いていたから、持ってきたわよ。」
俺宛のハガキ。
携帯電話の領収書くらいしか、俺宛てに郵便物なんて届かないはずなのに。
誰だろう。
手にして、目を見開く。
母さんが届けてくれたハガキは、俺を過去の記憶へと誘うものだった。
