ああ、ダメだ。

想像したみたいに、現実は上手くいってくれない。


緊張し過ぎて、声も裏返ってる。

真っ赤に染まる頬を押さえながら、顔を上げる。


振り向いてくれたのは、少し派手な見た目の女の子だった。



「おはよー!………っていうか、初めまして………だよね!?」


明るくそう言って、目の前の席に座る女の子が笑う。


どうやら、突然声をかけられたことに対する不満はない様だ。

そのことにとりあえずホッとしつつ、改めて、目の前の名前も知らない女の子に目を向けた。



ほんのり、赤めに染めた髪。

わざとなのか、薄く染めた部分と濃く染められた部分がある。


そのコントラストが鮮やかで、派手であるのに下品な印象は一切受けない。



目はぱっちり二重で、二重の目を更に大きく見せるアイメイクもしている。

バサバサの睫毛に、くっきり引かれた黒のアイライン。


生まれ育ったあの田舎町にいたら、間違いなく誰よりも視線を集めるであろう。

言うならば、私とは全く違うタイプということだ。



(もしかして、私なんかが話しかけちゃ………ダメだったんじゃないかな。)


私みたいな地味なタイプが、話しかけてはいけなかったのかもしれない。

私みたいな女の子を嫌いであるかもしれない。


話しかけたことを後悔しかけたその時、その子はさっきよりも微笑んで、こう続けた。



「私、水野 千夏[ミズノ チナツ]!ねえ、名前、教えてくれる?」

「あ、天宮 春奈………です。」


軽快な口調につられて答えれば、目の前の女の子からポンポン言葉が返ってくる。


人と話をすることに、苦手意識を感じていたはずなのに。

他人と関わることに、私は誰よりも気を遣って、慎重に動いていたはずだったのに。



「うわー、可愛い名前!」

「え、そんなこと………ないよ。」

「可愛いって!私の名前よりも、全然可愛いじゃん!!じゃあさ、ハルって呼んでもいい?」


そう言われて、私はすぐにコクンと頷いてしまっていた。