独り言みたいに小さく呟いた佐藤先生に、即座に聞き返す。

佐藤先生が運んできたのは、思いもよらない知らせだった。



「天宮さん、引っ越すのよ。どこって言ってたかしら…………確か、東京かどこかって聞いたけど。」

「とう………きょう………?」

「詳しい場所までは知らないけど、そろそろ着いてる頃じゃないの?」


佐藤先生の言葉が、俺の心にさざ波を起こす。

ユラユラと、その言葉に揺り動かされる。



(天宮が引っ越す………。)


天宮がいない。

天宮は、もうこの町にはいない。


その事実が、俺に衝撃を与えた。



親しくなんてなかった。

話したことだって、数えるくらいしかない。


だけど、寂しいと思ったんだ。

天宮がこの町からいなくなるのは、寂しいって思ってしまったんだ。



あの涙は、最後だったから。


この町から離れることを分かっていたからこそ、流したものだったのか。

この町との別れを知っていたから、流していたのか。



天宮は、せいせいしているのかな。

つらい思い出ばかりが残るこの町を離れることが出来て、喜んでいるのかな。


彼女の心を知ることが出来たなら。


新しい街が、彼女にとって優しいものだといい。

そう、願わずにはいられなかった。




俺は、天宮を救えなかった。

泣いている天宮の涙を、止めてやることが出来なかった。


天宮の涙を思い出し、職員室から空を見上げる。



(天宮………。)


これだけは、自信を持って言える。


天宮は、この町に戻ってくることはない。

この町には、もう現れることはないだろう。



いつも窓際で、本を読んでいた天宮。

絵がすごく上手くて、みんなが驚く様な素晴らしい絵を描いてみせた天宮。


天宮の姿をこの町で見かけることは、もうないのだ。

きっと。





職員室から見上げた空は、霞がかっていた。

微かに白いその空は、まるであの子の様な空。


どこか儚い、危うささえ感じる色。



この空は、天宮のいる場所にも繋がっているのだろう。

誰も知らない土地へ行ってしまった、あの子の元へと繋がっているのだ。


ふと、そんなことを考えていた。