低いビルの群れが消え、田んぼが並ぶ風景が広がる。
目によく馴染んだ、優しい景色が。
これからは、毎日、この電車に乗るのだ。
新しい制服を着て。
バッグを持って。
きっと、隣には矢田がいて。
逸る気持ちを抑えきれず、思わず頬が緩んでしまう。
電車に乗って、町へ帰ってきて。
真っ先に足を運んだのは、俺の母校になった中学校。
ここに来るのは、卒業式以来だ。
当たり前のことだけれど、何も変わっていない。
数日前と何1つ変わらないことが嬉しくて、ホッとする。
いろいろ行きたいと思っていた場所はあった。
数日前まで使っていた教室。
みんなで走り回った校庭。
卒業式をやった体育館。
だけど、まずは報告の為に、職員室へと顔を出す。
担任だった佐藤先生に、合格したことを報告したかったから。
しかし、その時に聞かされたのは、意外な事実だった。
「佐藤先生!」
「あら、紺野くんじゃない。今日はどうしたの?」
「先生、俺、合格しました。今日はその報告がしたくて、学校に来たんです!」
「わあ、ほんと!?おめでとう、紺野くん!!」
俺の肩を叩きながら、立ち上がって喜ぶ佐藤先生。
自分のことの様に喜んでくれる佐藤先生に、しきりにお礼を言う俺。
懐かしんで、昔話に花を咲かせているうちに出てきたのはあの子の名前。
「あー、そうそう。天宮さんは、そろそろ着いたのかしら………。」
天宮という単語。
着いたという表現。
佐藤先生の言う天宮は、俺が知っているあの天宮を表している訳で。
浮かんだのは、最後に見た天宮の姿。
真っ直ぐ前を見て、声も出さずに泣いていた天宮の横顔。
何故だか忘れられない、天宮の涙。
天宮が、一体、どこに着いたというのだろう。
確かなことは、俺が知らない何かをこの人が知っているこということだけ。
「佐藤先生、それ、何の話………?」
