一言でいい。
天宮と話したいと思っていた。
もしも、天宮と会えたなら。
いつか、天宮と会うことがあったなら、言おうと思っていたことがあるんだ。
ありがとうと。
気持ちには応えられないけれど、天宮の気持ちはちゃんと伝わったから。
そして、すまなかったと。
助けてあげることも出来たはずなのに、そうしなかったことを謝りたかった。
伝えたかったのに。
言いたかったのに。
彼女は卒業式が終わった直後、俺の前から消えていた。
まるで、最初から、そこにいなかったかの様に。
さっきまで、そこにいたんだ。
確かに、みんなと一緒にそこにいたのに。
誰とも言葉を交わすこともなく、天宮は消えた。
ひっそりと、その場から立ち去った。
いなくなってしまった彼女の代わりに、俺の元へと駆け寄ってきたのは茜だった。
「ユウキ!」
「茜………?」
茜は泣いている様子もなく、いつもみたいに笑っていた。
他の女子の様に、涙の跡が残っていることもない。
駆け寄ってきた茜は、恥ずかしそうに微笑んでこう言った。
「ユウキ、あのね………話があるんだけど、いい?」
「話って………何?」
「ここじゃ、言えないの。………2人きりになりたい。」
ここでは言えない話。
2人きりになりたいという言葉。
いくら鈍くたって、分かる。
これが、第六感というものか。
俺の中の勘が、こういう時に限って鋭く働く。
茜の話は、いい話ではない。
少なくとも、俺が待ち望んでいる話ではない。
分かってた。
分かっていたけれど、俺はこう答えていた。
「分かったよ。」
いつもは、どこか避けていた。
茜と別れてから、茜と深く関わることを嫌っていた。
そうするべきではないと思っていたから。
茜との未来が見えないのに、深く関わるなんて出来ないと思ったから。
