side・ハル







桜の蕾が膨らんで、固い蕾の奥から薄紅色の花びらがわずかに覗かせている。


閉じ籠もっていた殻を破って、外の世界へ。

まだ微かに冬の気配が残る、この世界へ。



今年も、春が巡る。


あなたと出会った季節。

そして、あなたに恋に落ちた季節。


今年も、春がやってくる。



始まったのも春ならば、終わるのもまた同じ季節。











3月上旬。

卒業式、当日。


体育館の鉄の扉の前に、私は今、立っている。



ここに来るまでに、どれだけの勇気が要っただろう。

何度、引き返したいと迷ったか。


昔の私なら、きっとここにはいなかった。

ここに立つことから逃げ、殻を破ることもなかったことだろう。



だけど、それでも逃げずに来た。

ここに立つことを選んだのだ。


もっとも、中に入ることを躊躇っていたせいで、卒業生は既に体育館の中へと入ってしまったのだけれど。



重たい鉄の扉を押して、体育館の中へと足を踏み入れる。

久しぶりに入る体育館の中は、何だか知らない場所の様だった。


それも、そのはず。


私が体育館の中に入ったのは、もう1年以上前のこと。

まだ教室に、普通に通えていた頃のことなのだから。



(あれ………?)


体育館って、こんなとこだった?


やたらと狭く感じるのは、いつもよりも多くの人でごった返しているせいだろうか。



たくさんの人が、体育館の後方部分を埋め尽くすかの様に蠢いている。

きちんとした身なりの大人がその多数を占めていることから、後方にいるのは卒業生の保護者なのだろう。


この中に、きっとお父さんもいるはずだ。

私が来てと頼む前に、自分から卒業式に出たいと言い出したお父さんが。


お父さんは出席するのだと張り切っていたけれど、お母さんは来ないだろう。

自分を捨てて離れていく娘のことなど、興味がないのだろう。