side・ハル







暑い夏が終われば、訪れたのは秋。

夏の蒸し暑さから解放されれば、通り過ぎていくかの様に短い秋がやってくる。


背後に迫る、冬の足音。

厳しい冬の気配を遠く感じながら、保健室に通う毎日。



両親の仲は悪くなる一方で、良くなることはなかった。

亀裂は深まるだけで、埋まることはない。


繰り返される喧嘩に、巻き込まれることも少なくなかった。




秋は、1年の中でも行事が多い季節。

私はそのどれにも、参加することはないけれど。


私が唯一、参加した行事が1つだけある。

それは、学校祭だった。










校内が普段よりも、より煌めく日。

ザワザワと騒がしいのは、もう数週間も前からだ。


夏休みが終わって、秋へと季節が変われば、すぐに学校祭の準備が始まる。

この時期になると、校内を取り巻く空気が一変するのだ。



ワクワクして。

心が弾んで。


紙の輪を作って、繋げる。

和紙で作った、色とりどりの大輪の花。


みんなで、何かを作り上げていく。

その過程に、感動を覚えて。



行事を通して、クラスメイトとの絆を育んでいく。

人生にとって、大切なことを学んでいく。


勉強だけが、大切なことという訳じゃない。

勉強だけが、人生にとって大切なことという訳じゃない。


他人との関係を築いていくことも、長い人生には必要なことだ。

それを、こうして学んでいくのだ。



素晴らしいこと。


でも、その輪の中に、私はいない。



名簿の中には名前があるのに、教室には存在しない生徒。

名前だけの生徒。


そんな私が、みんなの輪の中に入ることはない。




準備にも一切参加せず、迎えた当日。

学校祭の日。


私は誰よりも早く登校して、保健室の中に滑り込む。

そっと、衝立の奥に身を隠した。