4ヶ月前。

バレンタインデーの日。


忘れもしない、あの冬の日。



俺宛てのチョコレートを見つけた磯崎。

天宮のバッグから、水色の小さな箱が奪われていく。


天宮の手が、虚しく宙を舞った。



「天宮さんはー、紺野くんのことが好きなんだって!」


自慢げに、そう告げる磯崎。

響く、嘆き。


あの子の声が忘れられない。

脳に刻み込まれて、忘れさせてくれない。



天宮は知っているのだろうか。


取り上げられた、チョコレートの行方を。

あの小さな水色の箱が、今、どこにあるのかを。



あのチョコレートは、最終的には俺の元にきちんと届いた。

天宮が書いたカードも、俺の手元にある。


磯崎が言っていたことは、嘘じゃなかった。

天宮の言葉で書かれたカードには、俺のことがずっと好きだったと確かに書かれていた。



俺に、彼女がいることを知っていただろうに。

茜の存在も分かっていたはずなのに、それでも天宮はチョコレートを作った。


その行動の裏に、どんな気持ちがあったのだろう。



つらい想いもしただろう。

切ない気持ちを抱いていたことだろう。


直接渡されていたならば、俺はどんな言葉をかけていたのかな。



あのチョコレート、美味しかったよ。


天宮の気持ちには、応えられないけれど。

天宮の気持ちとチョコレートは、ちゃんと受け取ったんだよ。



ありがとう。

こんな俺のことを好きになってくれて、ありがとう。


そして、ごめん。

その気持ちに応えることが出来なくて、ごめんな。


そう言いたいのに、伝えることは叶わないまま。





「こら、紺野!どこ、見てるんだ!!」

「………!」

「いい度胸してるな、お前は。………さーて、暇そうな紺野に問題でも解いてもらおうかな?」


さっきまで、黒板に向き合っていたのに。

脂ぎった中年教師の目線の先にいるのは、俺、ただ1人。



「す、すいません!」


慌てて、正面へと向き直る。


結局、あの人影が誰であるのかは、分からないまま。

その後、天宮が教室へと顔を出すこともなかった。