side・ハル







真っ白な壁。

クリーム色のカーテンに囲まれた部屋。


そこが、今の私の通う場所。

お父さんと立花先生が与えてくれた、安息の地。





学校の一角にあるその場所は、教室がある棟とは別の棟にある。


職員室や理科室、家庭科室などがある実習棟の1階。

奥まった場所に、ひっそりと存在していた。



私が保健室に通う様になってから、立花先生は私の為に少しだけ保健室を改造してくれた。

保健室の片隅。

窓際に置かれていたベッドを撤去して、私専用の机を置いてくれたのだ。


保健室を利用する生徒から見えない様に、クリーム色のカーテンと同じ色の衝立で仕切って。



ベッドが1つなくなったくらい、言われなければ気が付かない。

毎日利用する人でもなければ、気にも留めないのだろう。


誰にもバレることなく、通学する方法。

出席日数を稼ぐ為に、お父さんと立花先生が思い付いた苦肉の策とでも言うべきか。



教室に行くことが出来るのなら、こんな策を講じなくても良かったはずだ。

隠れる様にコソコソと、学校に通うこともない。


だけど、今の私には、それが出来ない。

みんなに出来ることが、私にはどうしても出来ない。


小さな私専用のスペースは、私の壊れてしまった心を温かく守ってくれていた。










「あ、そうだ。佐藤先生から、天宮さんの荷物を預かっているのよ。」


初めてここに来た日、立花先生はそう言った。


目尻がキュッと上がっていて、見た目は厳しそうに見える先生。

私も最初は、立花先生にでさえ怯えていたのだ。


しかし、それは見た目だけのこと。

一見怖そうに見えるのに、ふとした瞬間に見せてくれる表情は柔らかだった。



「ありがとう、ございます…………。」

「いいのよ、お礼なんて。本当は、もっと早く渡すべきだったんだから。」


受け取った荷物には、見覚えがあった。


私のバッグ。

あの頃、通学用に使っていたバッグ。


あの日、私が教室に置いていってしまった物。