茜は、誰とでも簡単に打ち解けるタイプだ。


人懐っこい笑顔は、周りに人を呼び寄せる。

呼び寄せた人を惹き付けて、掴んだ心を離さない話術。


それが、茜にはある。



茜の男友達。

そういう存在は、俺だけではない。


言うならば、矢田だって、そう呼ばれる人間の1人なのだろう。

茜にとっては。



だが、茜は、矢田にはこんな風にくっ付いたりしない。

他の男にも笑いかけることはあっても、体を寄せるほど近付くことはない。


俺だけ。

俺だけだ。


自意識過剰と言われてしまえば、それまでの話になるけれど。



それに、それ以前の問題があるのだ。

俺と茜の間には。


そもそも、俺と茜は、いつ友達に戻ったのかということだ。



友達に戻る。

戻ろうと言われたことはあるけれど、それを承知した記憶は俺にはない。


頷いたことさえない。

それなのに、いつの間にか友達に戻っている事実。



別れてからしばらくは、会話も交わさなかった。


気まずくて。

視線を合わせることさえ、気が引けて。


そっと、視線を外すことが多かった。

視界の端にいることは分かっていても、あえて茜を見ようとはしなかった。



別れって、こういうものなんだ。

付き合っている女の子と離れるって、こういうことなんだ。


そう思っていた。



元に戻れないことは理解していた。

戻るつもりも、俺にはなかった。


それを覚悟して、別れることを決めたのだから。

簡単な気持ちで、茜との別れを決めた訳ではないから。



それなのに、蓋を開けてみたら違ったとはこういうことか。


春になって。

3年に進級して。


気が付いたら、こんな状態だ。

茜は昔と変わりなく、俺に話しかけてくる様になった。



友達でしょ?

別れたからって、縁が切れるんじゃないでしょ?


友達。

その言葉を巧みに使って、再び俺の隣にいる。