私はいつまで経っても、あの日から離れられない。
あの日の記憶から抜け出せない。
そんな私を、心配そうな眼差しで見つめるお父さん。
「………。」
「ハル、平気か?気分が悪いのか………?」
「………、心配………しないで。」
何も考えるな。
何も感じるな。
考えたら、私はまた動けなくなる。
感じたら、私はまた家に帰りたくなる。
私は車窓を流れる景色を眺め、何も考えないフリを必死でしていた。
到着したのは、学校。
学校の敷地内の端にある、来客用の駐車場だった。
敷地内の端にあるせいか、人の気配はない。
それが、私には救いだった。
(どうして、こんな場所を知っているんだろう………。)
一瞬だけ不思議に感じてしまったけれど、よくよく考えれば、それは当たり前のことだ。
私の両親は、2人ともこの町で生まれ育った。
小さな町の中で出会い、結婚したのだ。
この中学校は、私の両親の母校でもある。
何十年も昔、中学生だった両親も、この学校に通っていたのだ。
当時とは変わってしまった場所もあるだろうけど、駐車場の場所なんて知っていて当然と言えば当然なのだ。
私が最後に学校に来たのは、2月の中旬。
あの記憶の日。
冬も終わりに近い頃だった。
寒いの中、葉を落とした木々が凛として立っていた。
灰色の空の下で。
時を経て、景色は移り変わる。
私の好きな季節が過ぎ、今は新緑の季節。
桜はとうに散り、今は青々とした緑が生い茂っている。
駐車場を囲む様に作られた花壇。
花壇というささやかな庭の中で、色とりどりの花が咲き乱れていた。
(そっか………。)
もう、そんな時期なんだ。
春は、終わってしまうんだ。
それほどの時間が流れてしまっている。
忌まわしい記憶しか残らないこの場所にも、時間は確かに流れている。
立ち止まっているのは、私だけ。
時間を止めていたのは、私だけなのかもしれない。
