真新しい制服の様に、クリーニングしたばかりの制服が光沢を放つ。
きちんと付けられたスカートの折り目をサッと手で払ってから、ドアを開ける。
「ハル、準備は出来たのか?」
「うん。………行こう、お父さん。」
部屋の外へと、踏み出す1歩。
家の外へと、踏み出す1歩。
この1歩を踏み出すのに、こんなにも時間がかかってしまった。
どれだけ、陰でお父さんに心配をさせてしまったのだろう。
怖くない訳ではない。
磯崎さんや私をからかっていた人達を許せる様になった訳でもない。
紺野くんに会うことだって、怖いと思う。
顔を合わせてしまったら。
嫌な顔をされてしまったら。
壊れた心を、更に粉々に砕かれてしまったら。
だけど、それでも、信じてみたい。
私は、お父さんの言葉を信じてみたいんだ。
仕事を抜け出してまで来てくれた、私のたった1人の父親の言葉を信じたい。
久しぶりに乗る、お父さんの車。
外に出ることさえ拒んでいた私は、この車に乗ることもここ数ヶ月はなかった。
私が乗り込んですぐ、お父さんはゆっくりと車を発進させる。
いつもは歩いて通る、田舎道。
田んぼの横を通る、コンクリートの道。
1車線しかない細い道を、車で通過していく。
「………。」
自然と無言になってしまうのは、心の奥底に残る記憶のせいだ。
学校に近付くだけで蘇る。
目を閉じなくても、思い出してしまう光景。
教室。
机。
取り囲まれた自分。
味方なんて、誰もいない。
誰も助けてなんてくれない。
あの時、こうしていたら。
もっと早く、磯崎さんの存在に気が付いていたら。
もっと早く、紺野くんのことを呼び出せていたら。
あんなことにはならなかったのだろうか。
あんな思いはしなかったのだろうか。
(バカみたいだ………。)
そんなこと、考えたって仕方ないのに。
もう、あの日には戻れやしないのに。
