仁王立ちの様に、悠然と私の前に立つ人。
私が、この学校で1番苦手とする人。
何を考えているのか、最も理解出来ない人。
磯崎 紗由里。
ランドセルを背負っていた頃から、同じ学校に通っている女の子。
(この人にだけは知られたくない………!)
今まで、散々私のことをバカにしてきた人。
何でもないことまで、嘲笑う対象にしてきた人。
知られたくない。
この人にだけは、どうしても知られてはいけない。
何を言われるか、分からない。
何をされるか、分からない。
瞬時にそう判断して、右手に持っていたチョコレートの箱をサッと隠す。
しかし、目敏い磯崎さんが、私のその行動を見逃してくれるはずがなかった。
「ふふっ………、いい物、見ーつけた。」
一瞬の微笑み。
磯崎さんがさも愉快そうに、口の端をいびつに上げる。
ゾクッと、背中に冷たい汗が走る。
次の瞬間には、私の手にあったはずの物が消えていた。
初めて作った、チョコレート。
橋野さんの家のキッチンを借りてまで作った、チョコレート。
私の気持ちを詰め込んだ箱は、何の関係もない人の手によって奪われていた。
「ねー、これ、なーに?」
クスクスと笑いながら、磯崎さんがそう問う。
磯崎さんは分かっているのだ。
その箱の中身が、何であるのかを。
分かっていて、わざと私に聞いているのだ。
今日は、2月14日。
1年に1度しかない、バレンタイン。
世界中の人が、愛を伝える日。
私だって、そう。
例え、それが恋を諦める為であったとしても。
気持ちを告げるという行為は、他の人と同じ。
同じことを、私も紺野くんに対してしようとしているのだから。
どんなに鈍くても、気が付くだろう。
今日、ラッピングされているプレゼントを持っている意味を。
その中に入っているであろう、プレゼントの中身を。
分からないはずがない。
