side・ハル







全てが、初めてでした。


こんなに、誰かを好きになったのも。

こんなに、誰かのことを愛おしいと感じたのも。


全部、紺野くんが初めてだった。




言葉を交わすことがなくても。

視線を合わすことがなくても。


そこにいてくれるだけで、私は幸せだった。



紺野くんがいる。


それだけで、私の小さな世界は色を放つから。

目にも眩しいほど、鮮やかな色を発するから。


白と黒。

モノクロだった私の世界を変えてくれたのは、君。



初めて、好きになった人。

大好きだった人。


紺野くんが、私の世界を変えてくれた。



でも、それも、もう終わりだ。


私は、紺野くんの邪魔にしかならない。

私のこの気持ちは、紺野くんの邪魔でしかない。



紺野くんは、別の人を見ているのだから。

私ではない、別の女の子を好きになったのだから。



断ち切る時が来ただけのこと。


それが、今日。



自らの手で終わらせよう。

この手で、この想いを断ち切ってみせよう。


紺野くんの為。

そして、何よりも、自分自身の為に。



世界中が愛に包まれる日。

お互いの気持ちを伝え合い、結ばれる日。


私は今日、この恋を終わらせにいく。


初めての恋を捨てる日。

それが、私にとってのバレンタイン。









チュンチュンと、鳥のさえずりが冬の空の下で響く。


冬の冷たい空気と、鳥の鳴き声が同化していく。

一緒になって、混じって、溶けていく。



今日は、いつもよりも少しだけ早起きをした。

冷たい水で顔を洗って、憂鬱な気分をシャキッと切り替える。


鏡に映るのは、物憂げな表情をした14歳の少女。



腫れぼったい目。

赤みを帯びた瞼が、鏡に映り込む。


腫れぼったい目をしているのは、昨日の夜、ほんの少し泣いてしまったからだ。