天宮は、磯崎の嘘に気が付いているのだろうか。
磯崎が、天宮を心配なんかしていないこと。
天宮を思いやって、そう言っている訳ではないこと。
天宮の言葉なんか、磯崎は聞いてない。
天宮の小さな声を掻き消す様に、わざとらしいほどの大きな声で、磯崎はこう言い返した。
「ねえねえ、聞いたー?せっかく心配してあげてるのに、こんな風に言い返すなんて。」
磯崎の言葉に呼応して、周りの連中が悪乗りをし始める。
「さいてーい!親切にしてるのに、冷たくされてるんだけど。」
「天宮さんって、そういうこと言う人だったんだー!」
「意外ー、もっと優しい人だと思ってたのに。」
「心配してくれた人に、その言葉はないよね!」
「うん、うん!ないよー!!」
最低。
それは、どっちだよ。
天宮は、十分過ぎるほどに優しいじゃないか。
誰にも何も言わず、ただ耐えてる。
先生に告げ口してしまえばいいのに、それさえせずに我慢している。
たった1人で。
教室中に聞こえる様に、被害者面して喚く磯崎達。
勝手に被害者面してるけど、被害者はコイツらじゃない。
被害者は、天宮。
それは、誰の目から見ても、明らかだった。
「ユウキ………?」
ぼんやりとする俺を見上げる茜が、不安げな眼差しで俺を呼ぶ。
茜が、そんな声で俺を呼ぶのは珍しい。
甘えた様な可愛らしい声ではなく、どこか悲しい声音。
ユラユラと揺れる瞳。
そんな顔をさせてしまうくらい、俺は不安にさせてしまっていたのか。
考え込んで、難しい顔をしてしまっていたのか。
「悪い………、茜。」
茜のことを不安にさせたかったんじゃないんだ。
茜を泣かせたい訳じゃないんだ。
悪いことは何もしていないはずなのに、つい謝罪の言葉を口にしてしまう。
