さよならの魔法




この人から、慰めの言葉なんて聞けるはずがない。

私を罵ることはあっても、労ることなんてありはしない。


心の中まで、彼女に見透かされているのだろうか。



後退りしようにも、私の体は椅子の上にある。


逃げたい。

けど、逃げられない。


接着剤で貼り付けられたみたいに、体が椅子の上から動かない。



(………っ。)


気付くのが遅過ぎた。

紺野くんに気を取られていて、彼女達の存在に気付くに遅れてしまった。


私を取り囲む様に、周りに立つ女子生徒の群れ。



どうして、もっと早く気が付かなかったんだろう。

不穏な空気を読み取れなかったんだろう。


もう少し早く気付いていれば、ここから逃げ出すことも出来たかもしらないのに。

そうは思っても、後の祭り。


磯崎さんの顔は、とても喜びに満ちていた。

獲物を見つけた、獣の様に。



「何かね、天宮さんが元気ないみたいだから、すごく気になっちゃってー。」


偽りばかりの言葉。

私に元気がないから気になったのは事実かもしれないけれど、それは親切心からくるものではないことだけは確かだ。


仲のいい友達みたいにそう言うけど、磯崎さんが優しさからそう言っているのではないことくらい、私にだって分かる。



私と磯崎さんの繋がりは、中学に進学してからだけのものじゃない。


もっともっと、前。

ランドセルを背負っていた頃から、私は目の前の彼女にいじめられてきた。



私は、彼女の内面をよく知っている。


自分の仲間と認めた人間にしか、優しくしないことも。

自分より立場の弱い人間だと見抜いた瞬間、コロッと手のひらを返す人だということも。


彼女の内面を知っているからこそ、断言出来る。



磯崎さんは、私の心配なんかしていない。

これっぽっちも、私を労ろうとはしていないのだと。