「もしもし」

「最近、暑いな。
 そっちは?」

「確かに暑いけど、学校や家に居たらあまり変わんなくない?」

「そうかぁー?
 蝉の声なんて聞いたら暑さ増し過ぎるぞ」

「だろうねー。

 でも私は昂燿ほど山の中に居ないもの。
 いつも思うわよ。

 男ばっかの山奥の学校って、閉塞されすぎて息苦しくなんないの?」

「山奥ったって、一大都市だぞ。
 デパートもスーパー・ディスカウントショップ。
 
 本屋もあるしな、なんでも揃ってるから不自由しないしな。

 逆に言うと、今じゃ、この学園都市を出た時の方が
 いろんな場所に行かないといけないから、不自由かもよ」



そうやって話すアイツの会話に、
少しでも私が知らない男子校の要塞学園都市の内部を探ってく。



「紀天、テストは?」

「ボチボチ。

 化学が少しヤバそうだけど数学はパーフェクト決定だろうな。
 間違えた気がしないし。

 間違えてたら、ジュニアに顔向け出来ねぇしな」


サラリと告げられたジュニアの言葉。


そうだよね、私にも結愛が居るんだから
紀天にもジュニアがいるのは当然だよね。



「紀天のジュニアは優秀なの?」

「優秀、優秀。

 完璧すぎて、出来ないこと探すのが大変だよ。
 アイロンがけや、洗濯すら完璧にこなしやがる。

 オレ、いまだにアイロンかけられねぇし。
 どうしても角々に変な折り目がつくんだよな」


そんな風に言いながら、紀天の声は小さくなっていく。


「アイロンのかけ方、帰ってきたら教えてあげるよ。
 ジュニアに負けたくないでしょ」

「あぁ、頼むわ」

「あっ、そうだ。
 紀天、次帰って来た時もSHADE行こうか?

 私、こっそりモバイルファンサイト登録しちゃった。
 LIVE情報あったんだけど」

「いいなっ。
 んじゃ、そのLIVEは参加決定」

「OK、ならチケット手配頑張ってみるよ」

「頼むな。
 んじゃ、夏休みな」




SHADEって言う一つのバンドを媒体に
今以上に、深く紀天を感じられる時間。


そんな時間に溺れていたい。


そんな時間をエネルギーに変えて、
自分の時間も充実させていきたい。


夏休みの約束は、その日を迎えるまで
私を前に力強く進ませてくれるから。




アイツがアイツで今自分が成すべきことをしているみたいに、
私も私で、今の自分に必要なことをしながら日々を過ごしていた。