今まで晃穂との……アイツとの時間なんて
じっくりと意識したことがなかった。


朝、アイツを迎えに行ったとき……
アイツの服を見て、オレとの約束を凄く楽しみにしていてくれたことがわかった。

それと同時に、照れくさくてアイツに優しい言葉を返せなかった。
声をかけたら、おばさんの前で晃穂を抱きしめてしまいそうだったから。

それほどにアイツの存在は、オレには可愛く映った。


いつも一緒に居るのが当然すぎて近すぎて、
知ることが出来なかったオレにとってのアイツの存在のデカさ。


守ってやりたいのに、守られてばかりだったガキの頃。

アイツの弱さを知って支えてやりたくなった小学高学年から今まで。


オレの生活の傍にはこんなに深くアイツが居たんだな。


そんな感覚を実感しながら、
オレはアイツとの一日デートを楽しんでた。

アイツにとって、これがデートがどうかってのは
別問題。


アイツの前で、またかじりたての下手くそなドラムを
叩いてみたくなったのもアイツには今の俺の全てを知ってて欲しいから。


強引に練習スタジオの料金を二人分支払って
居座った。


アイツはと言えば壁際にもたれてたのは
知ってるけど、やがて練習にのめり込み始めた俺には
アイツを意識する余裕なくなって。


智早さんに出された課題に必死だった。


基本のリズムを忠実に。


そして、その基本のリズムをドラムのどのパートで叩くかは
本人のセンス次第。


いかに「おかず」と智早さんが呼んでた「FILL IN」を
遊び心を交えながら、基本のリズムをベースに自分らしさをだせるか。


シンバルから、順番にタムを右回しに叩いていくタム回しも、
ビシっと決まればかっこいいのに少しリズムの維持を失敗すると、
とたんに見っともない失敗作。