伊吹はあの後、一週間学院に戻ることはなかった。


ジュニアの居ない日々は少し寂しくて、
あの子憎たらしいアイツが居ない時間を弄ぶかと思いきや、
竣祐総代と高臣さまに連れまわされ連日のようにあの部屋へと通っていった。



部屋の中には、いつも和泉先輩が居て
オレは暫くその部屋で先輩の演奏を聞き入る。


室内に設置されたスピーカーから音が流れ出す。


その音にあわせて、何度も何度もドラムを叩く
和泉先輩の姿に釘づけになって、何時間もの時間が過ぎていった。



「紀天、君も叩いてみる?」



そう言って、和泉先輩が言ってくれると俺は頷いて、
先輩からドラムスティックを受け取る。


少し軽いそのドラムスティックは、
スティックの至る所に傷がついていた。



「んじゃ、紀天。
 とりあえず、8ビートから行ってみようか。

 まずは歩く感覚で、右足と左足を使っていこう」



そう言うと和泉先輩は、手拍子でカウントを取っていく。
そのカウントにあわせて、まずはリズムを体で感じる。


「とりあえず、B.D【バスドラム】とH.H【ハイハット】。 
 右足と左足から歩いてみようか。

 ドン・チッ。ドン・チッ」


促されるままにまずに体を使って、何度もそのリズムを繰り返しその後、
実際にドラムに座ってスティックで叩いていく。


とても簡単そうに思えることが、初心者の俺には思うように出来なくて、
躓きそうになることもあったけど、和泉先輩の課題が少しずつ増えていくに連れて
やっぱり嬉しいのは当然で。



何度もこの場所へ通って、和泉先輩が叩くドラムを叩いている聞いている間に
オレ自身の耳からの聞こえ方も少しずつ変化していった。


今までは音楽を聞いても、どの音も、音としての一括りの存在だった。


それが今は、バラバラに聞こえる。