「あっ、やっぱり。

 こんばんは。初めて出会ったのは、神戸だったかしら?
 紀穂【あきほ】さんよね」


そうやって声をかけて近づいてくるのは、
Ansyalのメンバーコスをした目をひく集団。


この人たちの呼ぶ『紀穂』は、私のAnsyalネーム。


憲の本名である紀天の「紀」と、自分の「穂」を重ねてつけた名前。


「神戸では有難うございました。
 貴姫【たかひめ】さんですよね」


「えぇ。
 今日もLIVEの後、やるのかしら?
 だったら私のチームメンバーにも手伝わそうと思うんだけど」


「有難うございます。
 今日も会場周辺をゴミ拾いする予定です。

 その方が、メンバーも次のLiveがやりやすいと思うから」


「そうね。

 紀穂さんがゴミ拾いをしている姿を見るまでは、
 私たちもそんな風に考えたことはなかったわ。

 大切なメンバーの居場所はファンが守っていかないといけないのよね。
 集合場所は?」


「会場前の陸橋の下、集合で」




紀天がAnsyalに入る前。
十夜と二人、Rapunzelに入っていた時からの私だけの習慣。


Rapunzelの時は私以外誰もゴミ拾いをすることはなかったけど、
今は貴姫さんたちみたいに少しずつ私の想いを受け継いでくれる人たちも増えてきた。


Ansyalにとっての最後のメンバーはファン。


応援してくれてるファン一人一人も、
Ansyalの一員には違いないから。


そうやって、呼びかけ続けてくれるメンバーやMCで伝え続ける、
十夜くんたちの想いをちゃんと受け止めていくところから、
ファンの道は始まっていくと思うから。


その後、定刻通りに会場が始まり私はいつものように最前列の端からステージを見つめる。


最前列のドセンにはこの辺のLIVEでは、
見慣れたTakaファンの女の子がすでに気愛【気合】もたっぷりに
もう一人の女の子と盛り上がっていた。



会場内に流れるBGMが少しずつ大きくなっていく。



暗転したステージの上からは、
メンバーの楽器の音色が響いてくる。



そして機材調整をしていたその音色がやんでスタッフたちがステージから消えた途端に、
会場内の照明が落とされてBGMが消えた。


会場内から一斉に湧き上がる歓声と共に私の意識はステージへと入りこんでいった。