「はいっ。
 こちらは、Ansyalの天の羽音公演の列になります。

 Aブロックの一番から順番に、参列で並んでください。
 チケットチェック時、ファンクラブ番号も確認します。
 
 先に画面を出して用意しておいてください」



口元に両手を添えて、ざわつくファンに呼びかけているスタッフTシャツを着たお兄さん。
だけど誰もお兄さんの話をじっくりと聞いている人なんていない。



「ねぇ、ワンドリンクだけど足りないよね。
 そこのコンビニでペットボトル買って持ち込もうよ。

 鞄の底に隠してたらわかんないって」


「私、今日ユカに頼まれてるんだ。
 LIVE中の写真を撮ってメールしてよって。
 ユカ、託実さまと十夜さまの写真が欲しいらしくてさ」



そんなファン都合の会話で盛り上がってるひらひら黒ドレスの集団。


スタッフの声が聴きたいのに騒々しすぎて、
声も何も聞こえないじゃない。




その場で軽く目を閉じて深呼吸。



次の瞬間、一気に肺の中の空気を吐き出すように言葉を続けた。




「前の人たち、静かにして。

 LIVE中の撮影は禁止。
 そんなマナーも知らないの。

 スタッフのお兄さん、この人たち撮影したそうだから要注意だよ。

 それにLIVEハウス内にペットボトルのドリンク・缶ドリンクの持ち込みは禁止されてます。
 メンバーに恥をかかせるような行動は慎んで」


一気に大声を張り上げて告げた途端、真っ黒な目の前の集団はチラチラと睨みつけながらおとなしくなった。


私だけじゃなくて、まぁスタッフの人たちが騒ぎを聞きつけてきたのもあるんだと思うけど。


周囲から、ひそひそと声が聞こえてくるけどそんな声は一切無視。
そう……私が自分で決めた紀天の為に出来る役割。


ファンの中から率先して、
Ansyalの為にマナー改善を促していくような、そんな運動を呼びかけること。


紀天たちAnsyalは私たちファンに素敵なステージをプレゼントしてくれる。

だからこそ私たちファンはAnsyalが、
次のLIVEの打診もやりやすいようにファンマナーを徹底して返していく。


ファンマナーが悪すぎて、
思うようにLIVE活動が出来なくなったバンドもあるから。


紀天たちの夢が、
そんなことになってしまったら耐えられない。



Ansyalには……紀天と……紀天の大切な存在の夢が沢山詰まっているから。
その場所が少しでも長く続くために私はこの場所で……彼らを見守り続ける。