「あっ、あの……瑠璃垣さん。

 さっき言ってたコイツの……あっ、伊吹くんのお祖母さまところに
 外出する日、本気でオレもついてっていいんですか?」


言葉を選んでる余裕もなく、ストレートに絞り出すようにマシンガン的に
勢いに乗せて紡いだ言葉。



「あぁ、構わないよ。
 むしろ、君には伊吹についていてやって欲しい」


伊吹の親父はそれだけ告げると、
親父と一緒に、何処かへと消えていった。


親父たちと逢ってからと言うもの、伊吹のテンションは下がり気味で、
その後は何時もの毒舌も殆どなくて。


生徒総会役員として慌ただしく動き回る竣祐さんの後ろ、
オレと一緒について回ってはお世話を繰り返す時間。


親父にはそう言われたものの、こんな状況下で、
晃穂のところになんて行けるはずもなくて
晃穂の視線に気が付きながらも言葉一つかけることが
できないまま合同学院祭は幕を閉じた。


祭りの後、昂燿生は真っ先にバスに乗り込んで学院までの長い道程を帰っていく。


その日、全ての行事を終えてベッドに就寝するものの、
ゆっくりと眠れるはずもなく、オレの脳裏に浮かんだのは、
伊吹が親父を見た時の寂しそうな表情。



複雑そうな家庭事情。



オレの家も他所から見たら、母さんが亡くなって、
後妻にあたる咲空良さんが家族になって
義理の弟になるはずの尊夜が病院から行方不明になって。


決して、平穏な家族・家庭って断言できるわけじゃないけど、
オレにとっちゃ、咲空良さんもガキの時から
守ってやんないといけない存在だったから
世の中の人が想像するほど、めんどくさい家庭じゃない。



この中に弟が……尊夜が居てくれたら、
咲空良さんがもう少し笑ってくれるかなっとか思うことはあっても。


咲空良さんが母さんの親友で、母さんを映した動画の傍らには、
ずっと咲空良さんが居たから。


オレと咲空良さんの出会いも自然だった。



だけどアイツは……伊吹は……多分、違うんだろうな。


何となく、
そんな空気だけは読み取れた。



そんな場所に尊夜は居るのか?



瑠璃垣伊吹の名前は、後継者の名前。



それは世間でも
有名すぎるほど知れ渡ってる。



だったら……伊吹はもっと将来の地位も安泰になっていて
堂々としててもおかしくないか?


あの葉書に映ってた志穏って名前の奴には、
まだ一度も逢ったことがない。



アイツが口にした会話を辿っていく。



『弟と母さん……』



確かにアイツはそう言ったんだ。


志穏って奴が、弟だとしたら
普通は『弟』とじゃなくて『志穏と母さん』って言い方にならないか?