情けねぇ……。
「お父さん、良かったですわね……。
紀天君がこうして、正式にご挨拶に来てくれて。
あの子も喜びますわ」
そう言って嬉しそうに小母さんが言葉を返してくれるものの、
小父さんは、少し複雑そうな顔つきで俺に視線を向けては逸らす。
「ごめんなさいね。紀天君。
私もお父さんも、晃穂のお相手は紀天君になったらいいわねって
ずっと言ってたのよ。
だから二人が成人した後も『晃穂はまだ紀天君にプロポーズされていないのか?』って
私にだけは言って来る有様で。
でも晃穂一人娘でしょ。いざその時が来たら、やっぱり少し寂しいのかしらね。
今だって、晃穂とは離れて暮らしているのに。
あの子、本当に大変でしょ。素直じゃなくて、女の子らしい一面なんてなくて、強がりで、
可愛げもなくて。
だけど……それでも、私やお父さんにとっては、大切な大切な宝物なの。
プロポーズをしてくれたら、あの子は本当に喜ぶと思うわ。
その時に……私から我儘なお願いがあるの」
そう言うと小母さんは、ゆっくりとソファーから立ち上がった。
リビングと奥の和室を間仕切る襖をゆっくりと開く。
和室に飾られていたのは、立派な花嫁衣裳の白無垢だった。
思わず廣瀬家の面々からため息が零れる。
「小母さん、この白無垢……」
「恥ずかしながら私があの子の為に仕立てていたの。
お友達が和裁の先生をしていてね、
少しずつ少しずつ、お教室に通って完成させたものなの。
何時か晃穂に着てほしくて。
私とお父さんが結婚式を挙げたのも、
神前式だったからお式は……」
そう言って小母さんは話を切り出してきた。
「実は俺の母さんが、ウェディングドレスも晃穂に着てほしいって……
メッセージを残してて」
「まぁ、しずちゃんが……。あの子は幸せものね。あなた。
でもどうしましょう……」
両家のそれぞれが目をあわせるようになった頃、
尊夜がサラリと鞄の中から、パンフレットを取り出した。



