「おぉ、紀天どうかしたか?」

「明日、晃穂の両親のもとに挨拶に行く。
 晃穂へのプロポーズは後にするけどな。

 お前の都合はどう?」

「何、紀天立ち会って欲しいわけ?」

「そう言うこと。
 お前、廣瀬尊夜だろ。

 俺の弟の」

「まぁな。そう言うことなら顔出すよ。
 瑠璃垣の仕事は、親父にでも押し付けてさ」


そのまま電話を切って、ベッドの上に大の字にゴロリとなる。


殆ど眠れないまま朝を迎えて、
俺はスーツに身を包んでリビングへと降りる。


「あらっ、紀天、準備できたのね」


そう言う母さんも、その隣でネクタイを結ぶ父さんも
すでに準備は出来ているみたいだった。

母さんは母さんで着物を来て、
手にはお母さんの写真を抱いていた。

約束の時間、晃穂が出かけた後を狙うように
隣の家の前に立つ頃、仕事に都合をつけて顔を出してくれた
尊夜が姿を見せた。


「おはよう」


母さんのことを、母さんと呼ぶことも、
父さんのことを、父さんと呼ぶことも出来ないけれど
こうしてアイツは忙しい時間の合間に姿を見せてくれた。


「悪かったな。尊夜」

「いいさ、紀天が緊張してるところ楽しめそうだしな」


面白そうに、俺を弄るように紡ぐアイツの憎まれ口も
今の俺には緊張を解してくれそうで心地いい。


「さっ、行こうか」


父さんの言葉で、ゾロゾロと廣瀬家の家族が絹谷家の門の前へと並んで
チャイムを押した。

 
「はぁーい」

「朝早くからお邪魔します。廣瀬でございます」

「すぐに開けますわ」


元気そうな小母さんの声が響くと、
すぐにドアが開いて、小父さんと小母さんが姿を見せた。