それだけ告げると晃穂の手によって玄関のドアは閉じられた。


閉ざされたドア。


手を伸ばせば届くアイツの家のドアノブ。
今すぐにでも掴んで、ドアを開けてアイツを抱きしめたい衝動にかられながら、
必死に理性を保って落ち着かせる。



じっと見つめたまま、動けないでいた。
だけど閉ざされたドアは、再び開く気配はない。


暫く閉ざされたドアを見つめながらも、
電車の時間は迫ってくる。



「晃穂、ごめんな。
 オレも、晃穂と一緒に悧羅に通学するって夏が来るまでは思ってた。

 だけどオレは、家族の絆も取り戻したい。
 養母【かあ】さんを笑わせてやりたいから。

 約束、守れなくてごめんな。

 晃穂……オレ、もう行くわ」


アイツの家に向かって黙って頭を下げると、
オレは最寄駅へと足を走らせる。



最寄駅から専用の特急列車に乗り継いで電車で過ごし続けること三時間。
緑の絨毯に囲まれた山奥の終点。



電車内のコールに促されて下車してから更に、
昂燿校の送迎バスを乗り継いで一時間。


長い道のりをかけて、
ようやく新しい学校の学園都市の門に辿りついたのは夕方。


悧羅校のイタリアの街並み。
海神校のギリシャの街並み。
そして昂燿校のドイツの街並み。



それぞれの街並みを匂わせるデザイン学園都市の門の前で、
入門の手続きをとった。



警備員の人に挨拶をしてセキュリティーボックスへと自ら入る。


その中の機械で指紋を認証させて、
液晶に映し出す、学生ナンバー。


その後、金属探知機での検査を終えて学園都市の門を潜る。



良家のご子息・ご息女も通う神前悧羅学院は、
セキュリティーも厳しいのが特徴だった。


三校の中でも特に厳しいと言われている、
通称『要塞』と呼ばれている昂燿セキュリティーシステムは、
部外者の存在を学園都市内にも侵入させることはない。



学園都市の門を潜るとそこはただっ広い昂燿校の敷地内。


よやく辿りついた転入校を前にして大きく両手を伸ばしてノビをする。
そこに横付けされる、真っ黒な高級車。



高級車のボンネットには、
昂燿校エンブレムと生徒総会の旗。


生徒総会とは学院生徒の代表で雲上人。



毎年、生徒たちが投票して決める生徒会とは違って学院理事が任命する、
学院代表の役職を持つ人。



突然の車に、その場でスポーツバッグを地面に置いて静かに膝を折って頭を下げた。



車の中から誰かが下りてくる気配がする者の頭をあげることは出来ない。



「悧羅校より昂燿校へと今季から転入する廣瀬紀天くんですね。

 どうぞ、顔を御上げなさい」



ゆったりとした口調の少年の声に誘われるように、
自分自身の体を起こす。