「託実、雪貴が隆雪の衣装を来てステージに立つって今メイクまで始めてる」
俺の言葉に、託実と尊夜が宝珠さんと、高臣さんと一緒に顔を見合わせる。
「今、隆雪のところには、晃穂ちゃんに行って貰ってる。
んで、隆雪は事故による脳挫傷で今から緊急手術。
隆雪が今日ここで演奏することは無理や」
尊夜が告げた現実が残酷に響き渡る。
「託実、もうお客さんでフロアーはいっぱいや。
今更、中止には出来ん。
かといって、隆雪の事故を今公表するのもパニックになるだけや。
雪貴の演奏は、オレらも知ってる。
アイツがやってくれるって言うんやったら、頼ったらどうや?
今日だけでも」
今日だけでも……その言葉が大きく突き刺さった。
「託実、十夜、紀天。
私たちは君たちの判断に任せて全力でバックアップにつく。
後の判断は、Ansyalのメンバーで話し合って決めるといいよ。
Ansyalが演奏する前に、会場内は別のバンドが時間を稼いでくれる。
今日のLIVE、智早、羚、廉【れん】、梛【なぎ】が来てる。
彼らが20分間セッションで時間を稼いでくれる」
高臣さんの言葉に、俺は懐かしい顔を思いだす。
「託実、とりあえず楽屋に戻ろう。
俺たちが一番望む形に」
「あぁ。方向が決まったらすぐに連絡します」
そのまま三人は慌てて楽屋に戻って行く。
戻った楽屋では、すでに衣装とメイクを終えた雪貴が
隆雪のギターを手にして、祈とギターの打ち合わせをしているみたいだった。
楽屋のドアを開けると、真剣に眼差しでギターを爪弾きながら祈と打ち合わせをする
雪貴の中に隆雪を見た。
「雪貴。
悪い、俺たちを助けると思って手伝ってくれ。
今日のLIVE、Takaも楽しみにしてたんだ。
お前が俺たちの曲を全てコピーしてたのは知ってる。
アイツから聴いて俺たち……嬉しかったんだ。
だから……隆雪の居場所、守ってくれねぇか?」
ただそう告げた託実に、アイツは頷いた。
前座にはびっくりするほどのスペシャルセッション。
そのセッションに、十夜と託実が乱入して
SHADEのカバーを一曲演奏すると、一度ステージからはけて
いつもの様にAnsyalのoverture。
幻想的な曲の中、真っ先にステージに飛び出した俺は
ドラムスティックを掲げて、一礼してそのままドラムセットへと向かう。
祈・託実と順番に姿を見せていくメンバー。
雪貴が出た時も、いつもの様にファンからはTakaさまコールが響く。
最後にステージに出た尊夜は、会場のムードを一気に引き寄せて
神聖な空気を醸し出し、メンバー全員での祈りの儀式。
俺たちの想いが隆雪に届くように、
アイツの想いが俺たち届くように。
この日から新たに始めたAnsyalのステージ儀式の後、
次から次へとリハーサルでも演奏した曲を続けていく。
だけどこの時の俺たちは、隆雪を信じて、
雪貴を信じて、今、この一周年記念LIVEを乗り切ることに必死で
その後に続く未来を知らなかった。
時折、雪貴のミスも目立ったものの
アイツの必死さは近くで強く感じてた。
雪貴をフォローするように、祈が瞬時にアドリブを交えていく。
尊夜もまたMCの際に、
雪貴をフォローするようにファンに語りかける。



