「もしもし」
「晃穂、落ち着いて聞いてくださる?」
電話の向こうの宝珠様の声は震えていた。
「どうかしたんですか?」
「今から神前悧羅大学付属病院へ行ってほしいの。
私たち、ステージがあって離れられないから?」
えっ?
大学病院にいってほしいって……。
「Takaが、交通事故にあって救急車で搬送されたって
宗成伯父様から連絡があったのよ。
Takaの本名は宮向井隆雪。
クリスタルレコードの関係者ですって、言えば入れるわ。
病院には連絡しておくから」
そう言うと、宝珠様の電話はプツリと途切れた。
そのまま電話を握りしめたまま、
脳内で宝珠様の言葉だけがリフレインしていく。
Takaさんが交通事故?
今からLIVEが始まるのに?
「どうかしたのかい?
血の気が引いたみたいだけど」
何時の間にか、同じ部屋に居た怜さんに気遣われるほどに。
「すいません。
宝珠さまからの電話で、
たった今Takaが交通事故で病院に運ばれたと。
他の人たちはLIVEがあって動けないので私、
急遽いかないといけなくて。
これ以上、お傍に入られません。すいません」
すいませんの言葉と同時に思いっきり、お辞儀をする。
「隆雪が事故?状況は?」
「まだ……何もわからなくて」
「こっちはいいから、アイツのところに行ってやって。
俺の方は気にしなくていいから」
怜さんの言葉に頷いて、私は二階の個室を飛び出して一気に階段を降りる。
開場時間が過ぎても、公演が始まらないLIVEハウスを人ごみに逆らうように飛び出して
私は足元に気をつけながら雪道を駅まで走り続ける。
電車は遅延していて何時復旧するかわからない。
タクシーも殆どっていない。
今も雪が降り続ける中、必死に病院を目指して街の中を走り続けた。



