……晃穂……。




アイツが居るのは確かなんだ。







立ち止まって、
ゆっくりと耳を澄まして周囲に意識を広げていく。




そこに届いたのは、
ドンドンと何かを叩いているような微かな音。





俺はその音がする方向へと一気に
走っていく。





その音は徐々に大きくなるものの
音と音の感覚が、少しずつ開いている気がした。




その手がかりに意識を集中させて、
ようやく見つけ出した、金属製の扉。





「晃穂、居るんだろう」




逆側からドアを叩いて、
俺は中に声をかける。




「えっ……あっ、紀天……」



返された言葉は、間違いなくアイツ声で。




「晃穂、少し離れろ。

 外側から、このドアをぶち破る」





そう言うと俺は、助走をつけながら
肩からそのドアに向かって自分の体重をかけながら、
ぶつかっていく。



何度も何度も繰り返してぶつける体が、
浮遊した感覚を得た時、俺とアイツの間に聳えていた
ドアが一緒にアイツの方へと倒れ込んだらしかった。



ドアと一緒に倒れ込んだ俺に、
後ろに避難していたらしい晃穂は、
慌てて駆けつけてくる。




倒れた俺に、可愛げのないアイツは
黙って泣きながら手を差し出した。



ったく、バカだなー。



こんな時くらい、抱き付いて来いよ。


ぐいっと、アイツの手を掴んだ途端に
俺の方に引きよせると、抵抗もなく、
アイツは俺の腕の中にすっぽりとおさまった。