「晃穂、何処か行くの?」

「ごめん。ちょっと友達から電話があって、
 紀天探してくる」

「紀天君がどうかしたの?」

「バンド辞めたらしくて、心配だからって」

「あらあら、それは大変ね。
 だけどもう、夜遅いんだから気をつけるのよ」

「うん。
 ジョギングがてら、ぐるりと一周して見つけられなかったら帰ってくるから」



それだけ伝えると、私は玄関から飛び出して
湿度のある七月の夜道を走っていく。


呼吸を弾ませながら走りつつ、周囲に視線を向けるものの紀天の姿は見つからない。


結局、見つけられないまま自宅へと戻る。
そのままシャワーを浴びて自室に戻ると、エアコンの風にあたりながら携帯電話を引き寄せる。


アイツからの連絡はない。


窓ごしにアイツの部屋に視線をけ向けるも、
アイツの部屋はまだ灯りはつかない。



SHADEの曲を流しながら、
アイツの部屋の灯りが付くまでずっとアイツの部屋を見続けた。


日付が変わって暫くして、
アイツの部屋に一瞬だけ灯りがつく。



ほっとしたのと同時に、私も眠りへとついた。
翌朝、目覚めて朝食を食べてから廣瀬家を訪ねる。



アイツはまだ眠ってた。
お昼になってもアイツは起きてこない。




「あらあら、晃穂ちゃんごめんなさいね。
 流石にお寝坊さんよね。
 今、紀天を起こしてくるわね」



リビングで咲空良おばさんが淹れてくれる紅茶を飲みながら、
アイツが起きてくるのを待ち続ける。


「部屋の外から呼んでも起きないのよ。
 熱でも出てるのかしらって、額に手を当ててみても熱は出てそうにないし……」


起こしに行った咲空良おばさんは、アイツを起こせないまま一階へと戻ってきた。


「私、紀天の部屋行ってきます」


そのままリビングを出て、アイツの部屋へと続く階段を登る。


ドアノブに手をかけて深呼吸。


「紀天、入るよ」


そうやって声をかけて、ドアを一気に開く。
アイツはまだベッドで丸まってた。

寝息は聞こえない……。
多分、起きてるのかもしれない。


無造作に置かれた鞄。
楽譜が散らばってる机。


折れたスティック。



それらのものを視線で捉えながら、
アイツの眠るベッドに持たれるように、床に座り込んで体育座りをした。