「まぁまぁ、晃穂も少し落ち着かないと」
「でもこんなの低レベルなファンが、アイツらのバンドのファンだなんて
許せないよ」
「って言ってもね……。晃穂」
「晃穂、智海、場所帰るぞ。
開場までまだ時間がある。
そんな話、ファンの前でやるもんじゃないだろ」
凌雅の声に私たちはその場から離れて、近くの喫茶店に入る。
開演ギリギリまで時間を潰して、
アイツらの初ステージ。
今回のステージから新メンバーとして紹介された、
アイツも尊夜君も、雰囲気的にはアウェイ感が強くて
近くに居るRapunzelのファンからは、苦情にも似た声が湧き上がる。
『あのボーカルの子、なんであんなに目立つのよ。
八代さまと、友樹さまが見えないじゃない』
『ドラムも煩いだけの音なんていらないわよ』
なんて好き勝手なことばかり。
Rapunzelとしてのオリジナル曲。
アイツに悪いけど、全く心に残ることもなく
二時間近くのステージが終わった。
自宅に帰った後、悔しくて悔しくてアイツに
何か言ってやりたくて、アイツの家まで押しかける。
怒りに震えた私と違って、アイツはゆっくりとこう言った。
『晃穂、怒ってくれて有難うな。
けど仕方ないさ、俺も尊夜も、新入りだから。
今はファンに少しでも早く受け入れて貰えるように
努力するさ。
だから……お前は、一番近くで見守ってくれ』
アイツのその言葉に、今も私は溺れ続ける。