そうやって床に座って、サウンドを体全体で感じながら
スティックを一心不乱に動かし続ける、そんなアイツ。


昔からアイツの……そんな横顔を見てるのが好きだった。





「大丈夫だよ……紀天。
 アンタのことは、ちゃんと私が守るから……」
 


真剣に目を閉じながら、ゴム板をスティックで刻み続ける
アイツに向かって、小さく呟く。



「えっ?晃穂、今なんか言ったか?」

「ううん、言ってない。

 空耳じゃないって言うか、ドラムの叩きすぎで耳が悪くなってんじゃない。
 紀天、アンタも難聴とか気をつけてよ」


「気をつけろって言われても、こればっかは気をつけられねぇだろ。
 あぁー、久しぶりにSHADEのリズム刻んだ気がするな。

 あの頃は、EIJIさんのドラムがかっこよくて、追いかけるのに必死だったけど
 今だと違うんだな」


「違うって?どんなふうに?」

「なんて言うか、EIJIさんのドラムはかっこいんだ。
 かっこいんだけど、あればEIJIさんだから、あの演奏であって俺じゃないって言うかさ。

 今の俺だったらこうやって叩きたいって、体が勝手に動くって言うのかな」

「なるほどねー。
 アンタも、成長してんじゃん。

 EIJIさんに生意気言える程度には」

「お前なぁー。
 俺が何時、EIJIさんに言えるって言ったんだよ。

 けど……オフだし、スタジオいって初心に帰って、SHADE思いっきり叩きてぇな」

「ふふっ。
 いいよ、だったら私も行く」




結局、ショッピングデートも遊園地デートも、水族館デートも
そんな可愛らしさのあるデートは一切なくて、今日もいつものアイツの日常にお付き合い。


昼前にスタジオに入って、夕方まで五時間くらい
アイツがスタジオでドラムを叩き続ける姿をじーっと見つめ続けて
時間だけが過ぎる。


スタジオを出る時間になると、耳がぐわんぐわん言ってる。




「あぁ、楽しかった。
 悪いな、付き合わせて」

「別にいいよ。
 アンタと一緒に居るといつものことだからさ。

 そう、九月にSHADE復活するんだってさ。
 一日限りだけどさ。

 行く?」


「マジかっ?
 九月の何日だ?ツアーと重なってなかったらいいけどな」


「Takaも祈も学生だもんね」

「そうそう。社会人と学生のバンドだからな、Ansyalは」

「えっとねぇー、9月15日だったかな。
 平日だったはず」




そう言いながら、ずっと言いだしたかった話題をようやく口にする。




「平日だったら、俺たちのツアーはないだろうな。
 後は瑠璃垣の方かな。

 けど……俺が行きたいって言ったら、休みはくれんだろうよ」

「やったぁ。
 じゃあ、私チケット無駄にせずに済むね」

「はっ?」

「アンタとなかなか逢えなかったし、二人分先に抽選申し込んだんだもん。
 競争率高すぎて、当選するかどうかはかなり怪しいけどな。

 ってなわけで、当選したらまた連絡するよ。

 さっ、晩御飯どうしようかー?
 美味しいラーメン食べたいなー」


最後の一言を少し強調するように言って、
アイツと一緒にスタジオを後にする。




私とアイツを繋ぐのはAnsyalと、SHADE。
そしてアイツの最初のバンド、Rapunzel。