『お疲れ紀天。
 ゆっくり休むんだよ』



通り過ぎた車に向かって心の中で唱える。




再びゴミ拾いに戻った時、
ポケットの中に忍ばせてある携帯がブルブルと着信を告げる。



ゴミを拾い上げて、ゆっくりと立ち上がると
ポケットから携帯を取り出して確認する。


*


To:絹谷晃穂



晃穂、いつもありがとな。
オレら今から離れる。

今日は嬉しかった。



ツアー終わったら、地下作業の前に
少し休みが取れるはずだから。


そしたらお前んちに行くよ。


だから好物食わせてくれ。


晃穂特製の秘蔵ダレのステーキ丼。
楽しみにしてる。



紀天



*






嬉しさに顔がにやけてくる自分自身を隠すように、
慌てて、携帯電話に向かって『ばぁ~か』っと小さく呟いた。




「紀穂さん、こっちは終わりました。
 今、会場のスタッフさんが出てきて、ゴミ袋を回収してくれるそうです」



貴姫さんの声を受けて私も慌ててLIVEハウスの前へと駆け出す。


全てのゴミを会場のスタッフさんに預けると、
全員で一礼して、その場を後にした。



貴姫さんに打ち上げに誘われたものの、
丁重にお断りして私は自宅へと足を向ける。



会場の最寄り駅から30分ほど電車に揺られて辿り着いた自宅の最寄り駅。


そこから徒歩で15分。

スーパーに寄り道して、簡単に食べれる夜ご飯の材料を買い求めると一人暮らしのマンションへと戻った。



「ただいま」



明かりのついていない真っ暗な部屋に入ると、
手慣れた手つきでスイッチを入れて私はお風呂場へと直行する。


一日の疲れを落とすべく、あまり長くない入浴タイムを終えて着替えを済ませると、
小さい時からの日課でもある、いつもの筋トレメニュー。


腹筋・腕立て・体幹トレーニング。


手慣れた手つきで、トレーニングメニューをこなして、
体幹トレーニングの静止中に携帯がブルブルと振動を始めた。


トレーニング終了までの時間を待って床に大の字で転がりながら携帯に手を伸ばす。