「悪かったって。
 急で悪いって思ってるよ。

 けど……会いたかったんだよ。
 せっかくの……オフだから……」


「知ってる。
 だから連絡くれたことに関しては、一度も怒ってないじゃん。

 あぁ、それよりお腹すいちゃった。
 駅から久しぶりに全力で走って帰ってきちゃった。

 まだまだ余裕だって思ってたけど、私も年取っちゃったなぁー。
 ちょっと疲れたかも」

「おいおいっ。

 何時までも中学や高校時代の感覚でいられたら、
 筋肉も悲鳴あげるぞー」


「ジジくさい説教は沢山。

 お母さん、家にはまたゆっくり帰るから。
 お父さんに宜しくねー。

 咲空良おばさん、いつも母がお世話になってるみたいで
 有難うございます。睦樹おじさんにも宜しくお伝えくださいね」

「あらあらっ、慌ただしいわね。
 晃穂ちゃんが帰ってきたと思ったら、もう紀天とデートかしら?

 晃穂ちゃん、また時間があったら私のサロンにいらっしゃいね」

「有難うございます」



昔も今も変わってない、家族ぐるみの私たちの両親たち。



「じゃ、母さんまた行くわ。
 尊夜がお膳立てしてくれた休暇、楽しんでくるよ」

「えぇ、いってらっしゃい」



両家のお母さん二人らに見送られて、
何時の間にか、着替えを済ませて隣に立ってたアイツと二人、
今度は歩きながら最寄り駅へと向かう。


駅近くの馴染の定食屋の暖簾を潜ると、
昼食を食べ終わったサラリーマンたちと入れ替わりに、
テーブルへとつく。



「おぉ、久しぶりだな。紀天くんに晃穂ちゃん。
 今日はデートかい?」

「厳【げん】さんのご飯が恋しくなって。
 私、いつもの日替わり定食」
 
「おぉ。晃穂ちゃんは日替わりな。今日は油淋鶏だぞ。
 いい日に来たな」

「やったぁー。厳さんの油淋鶏好き」

「そりゃー嬉しいね。
 んで紀天くんはどうする?」

「んじゃ、俺も一緒。
 けどそれだけじゃ少ないかも知んねぇから……」

「追加注文か?
 それには及ばねぇよ。

 最近はな、こんなお洒落とは縁遠い店でも
 お前さんのファンだって女の子が来てくれてんだよ。

 宣伝してくれてんだな。
 うちの店だけじゃない、向かいのパン屋の重【しげ】さんだって
 喜んでたぞ。

 楽しみにしてろ。
 サービスしてやっから」


そう言って、厳さんはすぐに調理場へと戻って行った。