そのまま切符を購入して、
ホームに入ってきた電車へと飛び乗った。


現役が終わった今も、まだ昔の習性で体力トレーニングをしているからか、
息が上がることなく電車の中で、軽く呼吸を整えながら
ドアに持たれて、アイツのサウンドを感じるべくMP3プレーヤーのボタンを押して
イヤホンを耳に突っ込む。


流れてくるのはAnsyalがカバーしたSHADEの名曲の一つ『SHADE』と言うサウンド。
ドアに持たれながら、自然と体がリズムをとっていく。


そう……アイツが、ドラマーとして音楽の道にどっぷりと浸かった私たちの思い出の曲。


何度も何度も演奏して、LIVEでステージを熟すたびに
飛躍していったアイツの軌跡。


そんな時間を私は、アイツの傍で見守ってきた。



『毎度御乗車有難うございます。
 次は桔梗が丘、桔梗が丘です。
 お出口は右側……』



音楽越しに聞こえてくる駅名を告げる声に
イヤホンを耳からはずして、
プレーヤーと共にポーチに片付けて鞄の中へと入れた。


ドアが開いたと同時に再び、階段を一気に駆け上がって
改札口を飛び出すと、自宅までの歩いて15分の道程を
走って5分くらいに短縮して帰路につく。



最後の曲がり角を曲がった途端に、
視界に飛び込んでくるのは、長身の逞しいアイツの体。


アイツの傍では、咲空良さんとウチの母さんが
楽しそうに花壇の手入れなんてやってて、
アイツはそれを手伝わされてるのか、ホースを手にしながら私に気が付いて
手を振った。



「あらっ、晃穂……」

「晃穂ちゃん、お帰りなさい」


母さんと咲空良おばさんに迎えられて「ただいま」っと挨拶を還すと、
アイツは「よっ」って片腕を軽くあげて、アタシの肩をトンと叩いた。


「ただいま、紀天。

 遅くなってごめんなんて言わないからね。
 アタシも仕事だったんだから。

 今日・明日が休みだってわかってるなら、
 夜遅くてもいいから、もっと早く連絡寄越しなさいよ。

 アタシだって、社会人なんだからね」


アイツと出逢った途端に、喧嘩腰にまくしたてる私。



やっぱりアイツの前では素直になれない。