「もしもし」

「おぉ、何してた?」

「あっ、お風呂入って柔軟してた。
 そっちは?」

「俺はドラムの練習終わって、部屋に戻ってきたとこだよ」

「そうなんだ。
 お疲れ様、紀天」

「お前もな」

「そうだっ。晃穂、俺……今日からSHADEのナンバードラム練習してんだ。
 今度帰ったら、聴いてくれるか?」

「うん。聴くよ……ちゃんと聴かせてよね」



そんな会話をしてると、電話の向こうでアイツの名を呼ぶおばさんの声が聞こえる。


「ごめん……お母さんが呼んでるよ」

「あぁ。こっちにも聞こえてた。
 また電話するよ。行っておいで。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


アイツの声が途切れて、聞こえなくなったのを確認して
俺も電話を切った。



「……お邪魔でしたか?」


何時の間にか、お風呂から出てきた伊吹が
髪の毛を乾かしながら、近づいてくる。



「伊吹……何時出てきてたんだよ」

「今ですよ。出てきたのは……。
 それより晃穂先輩待ってるなら、悧羅に戻ればいいじゃないですか?

 尊夜は見つけたわけでしょ。
 なら目的は果たしましたよね」 



突然、『尊夜」のその名をアイツ自身の口が紡ぐ。



「確かに、尊夜を探すのが俺の目的だったよ。
 けど今は……そんなのどうでもいいよ。

 お前が尊夜でもそうじゃなくても関係ない。
 俺がお前を気にいった。

 それに……葬式の時に、お前の兄さんに勝手に誓ったしな。
 まぁ、邪魔しない程度に見守っててやるよ。

 だから警戒すんなって」


「警戒なんてしてないですよ。
 
 好きで此処に残るなら勝手にしたらいいですけど、
 晃穂先輩に睨まれるのだけは勘弁ですよ。

 お前、女心読むの鈍感そうだから」


あんにゃろー。
小悪魔のような笑みを浮かべるアイツ。




二学期になって、アイツは俺にしか見せないであろう
砕けた表情を沢山見せてくれるようになった。




毎日、同じ時間のはずなのに新しい一日が始まるたびに、
昨日とは違う何かを見つけられる。




更に一週間が過ぎた頃、
いつもの様に放課後ドラムレッスンに向かう俺の近くに伊吹は姿を見せた。