なんとなく上機嫌で階段を降り、外へ向かうリアス。

この学園内から外への移動が無駄に広い敷地のせいで面倒だが、たまには自分でゆっくり歩くのも悪くないかもしれない。


そんなことを考えながら外に出れば、ちょうど門のところで見慣れたシルエットを見かけた。

茶色い髪と黒い瞳、まだ自分には少し及ばない身長。


先程の話題の少年、イアンだ。



「やあ、ご機嫌麗しゅう」


片手をポケットから出しひらりと振って声をかければ、既に師匠に気付いていたらしい弟子は途端に何とも言えない微妙な顔をした。



「う、うるわしゅう? なんだよ先生、にやにやして」



怪しい、なんて言う少年は、町に繰り出したくせに荷物が一つもない。

どうやら買い物もせずに、本当に手紙だけを出しに行ったらしい。




「お前も真面目なもんだなあ、毎月毎月」

「…だってこうしないとうるさいだろ」



少し拗ねたように言った弟子に、リアスは頬がほころぶのを抑えられなかった。


それを見たイアンは少したじろいで照れたあとに、何か変なモンでも食ったのか?と割と本気で心配する。

これにはお前じゃないんだから、と心外とばかりにリアスは言ってやった。


それでもなぜだか機嫌がよさそうな様子に、イアンは心底不思議そうに首を傾げる。




「そうだイアン、出会ったついでにだな、俺の分の郵便物も出してきてくれよ」

「はあ? イヤだよ、自分で出してこいよ」



何で俺が二度手間してまで先生のを出すんだよ、と、呆気なくパシリ作戦は失敗したが、まあこれも想定内だ。


ニヤニヤと笑うリアスに居心地が悪くなったのか、イアンは俺課題する!なんて超絶似合わないセリフを吐いてそのまま寮へと逃げ出した。


間違っていない正しい判断である。


リアスはからかう気満々だったが、逃げられたか、とちっとも惜しくなさそうにケラケラと笑う。




「あー面白。アイツはからかいがいがあるなあ」




今度はロゼと一緒にいるときにでも大いにからかってやろう。

それはそれは面白い反応が返ってきそうだ。


そう決意しルンルンと鼻歌でも歌いだしそうな勢いで歩き出したリアス。



その頃全力疾走しながらも悪寒を感じたイアンは、立ち止まり警戒心最大でキョロキョロ周りを見回していたとか。