「校長のところに行くんだろ?」

「そうだった。シルエラちゃんにお話しなくちゃ」


誘われるように開けられた扉をくぐり、イヴは思い出したように言った。

外に出ると、もう真っ暗な空に星が輝き、淡い月光が廊下を照らしている。



「俺はもう寝るからな!老体には夜更かしはひびくぜ」

「なーに言ってんの。まだまだ30代なんて若いもんよ」

「同じ30代のお前が言うんだな」

「だって私まだピチピチだもの」


明日はあの子たちとお茶するの、と嬉しそうに頬をほころばせ、イヴはリアスが鍵を閉めたのを確認して歩き出した。

それに着いて行き、リアスは後ろに遠ざかる寮を一瞬見上げる。



「まあアイツの自由だからな。俺は強制はしないぜ?」

「ええ。私だってそんなことしないから。安心してくださいな。じゃあおやすみ」


ひらひら、と手を振って、途端にイヴは忽然と姿を消した。

おお、と先ほどまで彼女がいたところを見て驚き、リアスはがしがし頭を掻く。



「相変わらず心臓に悪ぃな」


自分が振り回される側になるなんて、滅多にない経験である。

そういうところはイアンと一緒だな、と、リアスは苦い顔をして歩みを進めた。



「はあ、どうなることやら」



その呟きは澄んだ夜空に吸い込まれ、誰にも聞かれることなく消えた。


彼の憂鬱は続く。