彼との出会いは、些細なことだった。

私は、公立の早乙女高校に入学した。

そんな入学式のある時、ふと彼を見つけたのだ。いや…見つけられずにはいられなかった。

最初は一方的に私が彼のことをよく見ていて…。見た目も格好よかったし、ルックスもなかなかいいし、学校中で彼のことを知らない女子はいなかった。

漆黒の黒髪はほどよく少しはねっけがあり、肌は白く、これでもかと整った顔立ち。どこか綺麗、見る人によっては可愛いとも思う顔立ちに、黒ブチのメガネを掛けていた。ブレザーの袖から覗く大きな手はたくましい。


どんな女子もが彼に群がっていっていた。
彼はというと、そんな女子たちには冷たい視線をあげるだけで、一切口は開いていなかった。

そんな冷たい視線さえも、女子たちにはキャーキャーと騒がれてしまうだけなのだが。
それはさておき…

私たち、新入生は入学式を迎えた。大きな体育館でだらだらと校長先生の長話をぼうっと右から左に聞き流していると、いつのまにかプログラムはトントンとリズムよく進んでいったようで、次は新入生代表挨拶だ。

「あ…」

私は思わず目を見張ってしまった。あの格好いい彼だ。学年中もざわざわとざわめく。そんなざわめきのなかステージの教壇へとあがっていく彼。どんな動きもなんだかキレイで、遠目で見ているのに関わらず、しばらく目を奪われてしまう。
…格好いいなあ。

誰もがそう思っていただろう。


だが…その期待は、この彼の新入生代表挨拶という演説を聞いて、一瞬で崩れ去ってしまうことになるなんてことも、誰も思っていなかっただろう。