目覚めた直後、隣に横たわっているはずの珠貴の体を探った。
伸ばした手の先はどこまでもシーツの波で、ひんやりと冷たい感触から
今しがた立ち去ったようでもなかった。
睡眠をむさぼる私を起こさぬようにと気遣ったのだろう、サイドテーブルの
上に置かれたメモで彼女の帰宅を知った。
その横には、昨夜脱ぎ捨てたはずの私の衣類がきちんと畳まれていた。
帰ったのか……残念な思いが声になり部屋に響く。
寂しさに包まれながら、突然に襲われた空腹感に苦笑いが出た。
レストランに食事に行くのも億劫だった。
ルームサービスを頼むと、夜勤明けの顔をした狩野がテーブルを押してやって
きた。
「もう帰る時間だったんだろう? 悪かったな」
「いや、俺のほうもお前に相談があったから残ったんだ」
「相談?」
「あぁ、それはあとでいい。まずは食事を済ませてもらおうか」
遠慮のないやり取りに気分が少し晴れた。
短い睡眠では充分な休息は得られず、そばにいてくれるだろうと思っていた
珠貴がいなかったことで、目覚めの気分は良いものではなかった。
「彼女と話ができたようだな」
「まぁな……珠貴が何時頃帰ったか知ってるか」
「3時頃だったと思うが……知らなかったのか?
ひとりでのうのうと寝てたのか」
「そうらしい。彼女、車で?」
「いや、タクシーだ。彼をお願いします、と頭を下げられた。
珠貴さん、おまえが心配で真夜中まで待ってたんだぞ。
真っ青な顔をしてたよ。疲れているのはわかるが、しっかりしろ」
「うん……それで相談ってなんだ。もったいぶらずに早く言え」
「まったく、都合が悪くなると話題を変えるのか。
まぁいい、テレビをつけるぞ」
はぁ? と首を傾げたが、私のことなどお構いなしに、狩野は朝の情報番組を
選びチャンネルを合わせた。
おはようございますを連呼する出演者たちによって、昨日の主だった事件が
見出しの順に会話形式で紹介されていく。
見出しのひとつに私は目を疑った。
なぜここに私の名が出てくるのだろうか。
私だけではない、昨日一緒に記者会見席にいた沢渡医師の名前もあった。
「お前が何も知らずに寝てる間、とんでもないことになったようだ。
これから大変だぞ」
「狩野、わかるように説明してくれないか。俺にはまったく見当もつかない」
「珠貴さんの顔を見たら頭も顔も緩んだか」
「冗談はいい。何が起こったんだ」
「今にわかる。黙って見てろ」
昨日の異臭事件のその後が、リポーターによって伝えられていた。
事件そのものはレストランを解雇された従業員の逆恨みによるもので、騒ぎを
起こすことが目的だったが、予想以上の大事になり怖くなって犯人は自首して
きたと、これは私も知っていることだった。
記者会見の様子が映し出され関係者の話が流れたが、私と沢渡医師の部分
だけがやけに長く紹介された。
自分の語りをまんざらでもない思いで聞いていたのだが、その思いに水を
差したのはコメンテーターと呼ばれる人々の発言だった。



