けれど、得意げになっている口元をふさぎたくなって、やや乱暴に珠貴の肩を

ひきつけ、唇を合わせながら体の位置を逆転させた。

胸の下に追い込んだ彼女の肌は、隠し切れない昼間の光に照らされ、

ほんのりと薄桃色をたたえている。

それまでのゆったりとした会話は一時途絶え、時間を惜しむように互いの肌を

確かめあう。

珠貴の秘めやかな内部は充分に熟れ、刹那な時を迎えるために私は意識を

集中させた。





「今夜はお出かけだとおっしゃっていたわね。あまり時間がないのでしょう?」


「いや、まだ大丈夫だ。男の身支度は早いからね」



起き上がりかけた珠貴の腕をつかみ、余韻の残る肌を引寄せた。

ソファの上に畳まれた帯の柄が見え、出会ったときの珠貴の立ち姿を

思い出した。


新年を迎えても互いに忙しく、10日を過ぎなければ会えないはずだった。

今朝のこと、午後の予定に少し余裕があるとわかり、無理だろうと思いながら

珠貴に昼食でも一緒にどうだろうと連絡したところ、伺いますと嬉しい

返事だった。

食事をしながら顔が見られればそれで良かった。 

ロビーで彼女の姿を見るまでは……



待ち合わせの時刻に少し遅れて現れた珠貴の装いは、白大島に抑えた色の

名古屋帯を締めており、ロビーを行き交う人の視線を浴びているのも気付かず、

待ち人を探す姿だった。

観葉植物の葉の間から見える彼女の着物姿は、スーツしか見たことのなかった

目には新鮮で、私を探しているのだろうと思いながら、しばらくその姿を

眺めたのち、この美しい人の連れは私なのだと周りに知らせるように、

彼女のもとへと歩き出した。



「遅くなりました。小物選びに迷ってしまって」


「白大島か。良く似合ってるよ」


「よくご存知ね」


「お袋が着物を着るたびに講釈をしてくれるからね。

これはどこの紬だ、こっちは作家の一品だと

イチイチ教えてくれる。いつのまにか覚えたよ」


「楽しいお母さまね。息子さんに着物のあれこれをご教授なさるなんて。 

おかげでこうして褒めていただきました。

着ているものを褒められるのは、嬉しいことだわ」


「なるほど。こういうときのために、お袋はウンチクを語っていたってわけか」


「ふふっ、そうかも……これからどちらへ? あっ、その前にご挨拶が先だわ」

 

今年初めて顔を合わせたことを思い出し、立ち話の途中で互いにかしこまった

挨拶を交わすことになった。

珠貴より先に頭を上げると、襟からのぞくうなじの白さと肌の曲線が目に

飛び込んできた。

このときすでに食事へ行く予定を替え、部屋へ行こうと誘う気になって

いたのだから、男と言うものはどうしようもないものだ。

けれど、いきなり誘うのは憚られ、ラウンジでコーヒーを飲んだのち、

珠貴の手を引いて 「お食事はシャンタンなの?」 という珠貴の問いかけに

答えることなくエレベーターへといざなった。

誰も乗り合わせていない密室で、ひっそりと唇を合わせる頃には空腹など忘れ、

珠貴を欲する欲望を抑えられなくなり、部屋へ行こうと口にしていた。