沢渡さんと宗が関わった異臭事件後、美那子さんと私も交えて交流が始まった。
また、私の事件でもお力を借りることになり、救出劇に関わってくださったみ
なさんともご縁ができたのだった。
知弘さんが声をかけて一堂に会した去年のクリスマス以来の集まりで、今回は
霧島さんの婚約者の美野里さんも加わり、仕事で参加できない潤一郎さんを除
く十数人が顔をそろえていた。
『おめでとう』 の乾杯がすみ、お祝いの言葉が一段落すると、話題は先週の
私と白州さんの一件になった。
お二人をお祝いする会なのに、私へ話題が移り申し訳なく感じたが、話を持ち
出したのは今夜の主役の美那子さんで 「楽しい悪巧み」 の裏舞台を披露し
ているのは、もう一人の主役の沢渡さんだった。
「担当を振り分けて、持ち場を決めて、いざ計画が動き出すと
シナリオどおりに進んでいきますからね。ワクワクしましたよ」
「あっ、わかります。なんていうのかな、これが高揚感かと思いました。
だけど、こうも上手くいくとは思わなかったな。
近衛先輩は高みの見物でしたね。
自分は手を下さず、着々と計画が進んでいくのを見てるのは、
さぞ気持ちよかったでしょう」
「人聞きの悪いことを言うな。俺は動けなかっただけだ。
平岡、おまえこそ楽しそうに加わってたじゃないか」
「そうですけど、表の役者になれなかったのは残念でしたね。
僕の役回りは根回しでしたから」
「みなさん、いつお集まりになられたの? それぞれお忙しい方ばかりなのに」
紫子さんが聞いたこと、これは女性陣がみな感じていた疑問で、出張で海外に
行っていた潤一郎さんをのぞく7人もの男性が一同に顔をそろえるなど、不可
能に近い。
「知弘さんから帰国の連絡をもらって、去年のクリスマスのメンバーで
集まれないかと思ってね。
狩野と霧島君に声をかけたら、忙しそうなふたりが偶然休みで、
ほかのみんなも、その日なら大丈夫という返事で、俺も驚いたくらいだよ」
「そこで、宗一郎さんの大事な珠貴さんが、シロナガスクジラさんに
奪われないように、みなさんで縁談を壊そうってお話になったという
ことなのね」
余計なことを言うなと言うように 「コホン」 と咳払いをした宗だったが、
紫子さんの言葉を否定はしない。
「そのなんだ、成り行きで話をしたら、櫻井君が、あの二人には
よくない噂あるというから、そこから話が始まって」
「二人とも僕の兄の同級生で、なにかと話を聞かされていましたから。
一人は、女の子と付き合って飽きたら平気で他の子に乗り換える。
もうひとりは、ふたり三人と同時に付き合うのをなんとも思っていない。
そんなやつらだって。
学生の頃から評判の悪くて有名だったんです。
今はそれぞれの立場もあって、多少は控えているようですが、
簡単には性格は変えられませんからね。
そんな彼らが須藤家に話を持ち込むなんて、とんでもないと思ったんです。
ただ、僕が須藤社長に伝えるのはどうかと思って」
一時は私の相手にと両親が望んだ櫻井さんにとって、他の人の話であっても、
私の縁談に関わるのはどうかと迷われたのは当然のこと。
縁談が立ち消えになった時点で我が家とはかかわりがなくなり、一線を引いた
関係になるのが普通なのに、こうして、ひきつづき親しくお付き合いができる
のは、ありがたいことだった。



